(前編を読む)
──秋元社長がクリスチャンになった経緯は?
スタートは、大正6生まれの父が学生時代にお世話になった親戚のおばさん(元・救世軍)の影響で神様を知り、クリスチャンになったことです。両親とも敬虔なクリスチャンでしたので、私たち兄弟姉妹4人も洗礼を受けてクリスチャン・ホームを作っています。
──クリスチャンとして仕事をする上で大切にされていることは何ですか。
企業経営では、自分の存在意義、「何をするために神は私をここに遣わされたのか」を考えています。パン屋としてできる本業に専念し、その上で見返りを求めない継続的な社会へのお返し事業を推進することが、わが社の基本行動指針です。
──2013年にはキリン・ビバレッジ(東京都中野区)と「ハンガーゼロ自動販売機」を共同開発されています。その売上の一部がアフリカの人々を助ける働きに用いられ、同時に設置される「備蓄ボックス」(パンの缶詰とミネラル水の約100セット)は災害時に無償提供されます。これはどのような経緯から始まったのでしょうか。
キリン・ビバレッジの担当者が「救缶鳥プロジェクト」に賛同していただいたのをきっかけに、「この輪を広めるために何か協力してできないか」というところから生まれたものです。
この「備蓄ボックス」は、2014年の広島土砂災害や東日本大震災・福島飲料水支援などで使われました。その後も、設置から2年で入れ替えを行い、回収したパンの缶詰とミネラル水は、国内外の被災地や貧困地域に支援物資として届けています。
現在の設置台数は112台、2019年の募金額は320万477円に上ります。
──2019年には、石垣島産のユーグレナ(ミドリムシ)を配合した「みどりの救缶鳥+(プラス)」も発売されました。
「みどりの救缶鳥+」は、バイオテクノロジー企業のユーグレナ(東京都港区)と共同開発した商品です。ビタミンやミネラル、アミノ酸などの栄養価の高いユーグレナをパンの缶詰に配合することで、空腹を満たすだけでなく、栄養補給をサポートすることが可能になりました。
──今後の取り組みについて教えてください。
近年、食品ロスをはじめ、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが重要視されています。これまでは賞味期限が迫った備蓄食は、期限直前に配るか廃棄するしかありませんでした。しかし、救缶鳥プロジェクトでは、おいしいパンを無駄にすることなく、誰かを救う糧(かて)として活(い)かすことができます。また、支援先の国々では、中身のパンを食べ終わった空き缶が食器などに活用されているんですよ。
日本で非常食を備える人たちにとっては、「支援したい」という気持ちも資源も無駄にせず、賞味期限切れによる心配が軽減できる上に、支援先の被災地や食糧難地域の人たちに喜んでいただくことができます。さらに、救缶鳥の販売数が多くなるほどに、世界を救うプロジェクトを継続し、活動範囲を広げることができるようになります。
ただ、こうした支援活動する上で気をつけているのは、「優しさの押し売りをしない」ということです。支援とは、単にお金や物資を提供すればよいというわけではなく、現地の人たちが喜ぶものを提供することが本当の国際貢献へとつながると思っています。
私の目標は、いつかこのプロジェクトを通して飢餓をゼロにすることです。これからもパン屋として何ができるのかを考え、世界へ貢献していきます。