学校経営の危機が叫ばれる今、キリスト教学校はアドバンテージを持っている
――一方、学校経営という問題があると思います。
確かに今、学校経営はとても深刻です。キリスト教学校教育同盟(以下、同盟)の中で、2万人前後の学生を持っている大学は、立教大学、青山学院大学、同志社大学、関西学院大学の4つですが、これらの大きな大学も経営は簡単ではありません。常に改革をしていないと、文部科学省からの補助金を獲得できません。私学は文科省からの補助金が頼りなので、もらえないと学校経営にすぐ影響が出てしまいます。
現下の文科省の方針には、2000人以下の学校を二つに分け、生き残れそうなほうにのみ補助金を出し、そうでないところには補助金を出さないというものもあります。これはいわば、国から見て見込みのない大学には「潰(つぶ)れてくれ」とはっきり言っているようなものです。同盟に加盟しているかなりの大学はそれに該当するのではないかと思っています。しかし、文科省からすると価値のない小規模なミッションスクールこそ、実は、本来、手仕事であるキリスト教学校のあるべき姿であるとも言えるのです。
――それに対して同盟ではどういう対策を考えていますか。
現在、新たに構想中のプロジェクトでは、小中規模の大学が横でつながり、励まし合いながら、生かされていく道を探っていきたいと考えています。具体的には、情報交換とその共有から着手し、文科省の方針に立ち向かうための方策を練り出していきたいと思います。大きな大学との連携ももちろん重要ですが、ただ、一方向的関係ではなく、お互いが持つリソースをうまく組み合わせ、メリットを生かし合う、Win-Win関係であることが大切です。もう一つは、理事長や学長など、大学の中核を担うことのできる方の情報の提供です。
美しい理念を掲げるだけではなく、それをいかに守りながら、学校を潰さないか。文科省、国とのせめぎ合い、生徒の確保、教師のクリスチャン・コードの問題、理念とのバランス、多くの問題はありますが、それを丁寧につないでいく。それがおそらく同盟の課題であるし、可能性だと思っています。個々の学校で取り組むだけではなく、一緒に手を取り合って頑張っていこうと。個々のミッションや「建学の精神」をしっかりと確認していくことが、巡り巡って経営にも効果が出る、すなわち「売り」になることを再確認したいと思っています。
――教育のグローバル化ということに国は熱心ですが。
キリスト教は、パウロの時代からグローバルなのです。世界中にキリスト教の網は張られています。世界中に、キリスト教学校のネットワークがある。そもそも「キリスト教学校のグローバル化」などとは明らかに語義矛盾なのです。同盟に加盟している諸学校は、創立した教会の世界的なつながりを持っています。それらを合わせれば凄(すさ)まじいリソースになるはずです。留学、海外招聘(しょうへい)、海外プログラムなど、一緒に展開すれば、さまざまな可能性が開けます。世界中どこともつながれる。キリスト教学校は、他の私学では類を見ないアドバンテージを持っているのです。
――今期の同盟の研究テーマは、「多様性の尊重と共生を目指す」ということですが、最後に、いま話題となっているトランスジェンダーの受け入れについて意見を聞かせてください。
多様性ということの中には、セクシャル・マイノリティーの存在をどう受けとめるかということも含まれます。この問題は、今後の同盟の大きな課題だと思っています。世界の教会においては、この問題をめぐって教理的にも組織的にも厳しい議論が続いていることは事実ですが、ただ、はっきり言えることは、いずれの立場であっても、セクシャル・マイノリティーの方々の人間としての尊厳は完全に承認しているということです。一人の人間として決して尊厳が奪われてはならない、不当な扱いを受けてはならないというのが同盟の共通認識です。(前編へ戻る)