NCC教育部 LGBT差別冊子問題で楊尚眞氏に「要望書」送付

6月13日に開催された神道政治連盟(神政連)の国会議員懇談会で配布された冊子の内容について、性的少数者当事者や市民団体だけでなく、多くのキリスト教団体からも抗議の声があがっている。日本キリスト教協議会(NCC)教育部理事会(理事長:石田学)も19日、問題とされる講演録の当人である楊尚眞(ヤン・サンジン)氏と、所属する弘前学院大学(青森県弘前市)の藁科勝之(わらしな・かつゆき)学長宛に「要望書」を送付した。

楊氏は、弘前学院大学教授であると同時に同大の宗教主任も務めている。専門は、キリスト教教育学と牧会学。問題となっている講演録には「同性愛と同性婚の真相を知る」というテーマで、「同性愛は精神の障害、または依存症」「回復治療の効果が期待できる」などLGBTから抜け出すことなどが論じられている。

要望書では、楊氏の著書『同性愛と同性婚の真相─医学・社会科学的な根拠─』(22世紀アート、2021年7月)も踏まえたうえで、特に次の2点──①「同性愛は後天的な影響による性依存症」は誤謬であり、「性的少数者は倫理・道徳の問題があり、公共の福祉に反するという」見解を改めてほしい。②性的少数者は全世代にわたって存在し、すぐ隣にいる。苦悩しつつ生きざるを得ない人々の声に耳を傾け、自らの偏見に気づき、寄り添って生きてほしい。──を要望している。

続いて、アフリカ諸国での同性愛厳罰(死刑)規定にもふれ、その背景には、植民地時代、欧米の宣教師が聖書の記述を根拠に同性愛を断罪した歴史があり、キリスト教の負うべき責任は大きいと記す。さらに、「私たちにいのちを与え生かす神が、たいせつな存在である人間を断罪し、死を望まれるだろうか」と述べ、同大の学生や職員の中にも当事者はおり、その人たちを断罪することができるだろうかと迫る。最後に、楊氏のトランスジェンダーへの見識が不十分であることを指摘し、想像を超える多様な性的少数者が存在している事実を知ってほしいと強く訴えかけている。

以下、「要望書」全文

弘前学院大学学長  藁科勝之 様
              同教授  楊   尚眞  様

2022 年 7 月19日
日本キリスト教協議会(NCC)教育部

「要望書」

主の聖名を讃美します。
貴大学が創設以来めざしてこられたキリスト教教育活動に敬意を表します。
日本キリスト教協議会(NCC)は、教派を超えて派遣された理事・委員によって構成され、教会教育・平 和教育・人権教育を 3 本の柱としてキリスト教教育活動をしています。6 月 13 日に開催された「神道政 治連盟・国会議員懇談会」にて配布された冊子の内容について、性的少数者当事者や市民団体だけでな く、多くのキリスト教団体からも抗議の声が寄せられたと思います。教育部に連絡先を置く「全国キリス ト教学校人権教育研究協議会・運営委員会」も文書を送付しました。私共は以下のように要望します。
1 「同性愛は後天的な影響による性依存症である」との見解は誤謬であり、当人の意志や努力では変 えられません。「性的少数者は、倫理・道徳の問題があり、公共の福祉に反する」との見解も、差別 意識・差別発言となりますので改めてください。
2 「性的少数者」は、幼児から高齢者まで全世代にわたり、私たちのすぐ隣にいます。苦悩しつつ生き ざるを得ない人々の声に耳を傾け、自らの偏見に気づき、寄り添って生きていってください。

上記の冊子に書かれた内容の背景を知るために、楊尚眞氏の著作 『同性愛と同性婚の真相─医学・社 会科学的な根拠─』 (株)22世紀アート2021年7月発行を読ませていただきました。同書には、在米 中の著者の研究経験を元に、既に同性婚が合法化されている合衆国 11 州をはじめ、台湾を含む欧米諸 国28か国に起きている諸問題への見解が記述されていました。例えば男性同性愛者の性感染症を含 む健康問題、同性婚家庭における子どもの養育環境、異性愛性教育と同性愛性教育とを義務教育では同 様に扱う必要が生じるなど、多くの課題が論じられていました。諸外国におけるカウンセリングの実態、 牧師による「脱同性愛運動」による回復事例や、同性婚合法下後も自死率が下がらない理由として当事 者自身の悩みが深い点などが記述されていました。今後の課題として重く受けとめる必要はあります。
その上でなお、特に上記 2 点について要望いたします。アフリカ諸国での同性愛厳罰(死刑)規定の背 景には、植民地時代、欧米の宣教師が聖書の記述を根拠に同性愛を断罪した歴史があり、キリスト教の 負うべき責任は大きいと言えます。自らの努力で変えられない性自認や性的指向に対して、他者が「死 刑判決」を下せるものでしょうか?私たちにいのちを与え生かす神が、たいせつな存在である人間を 断罪し、死を望まれるものでしょうか?
当然のことですが、貴大学内にも当事者の方はおられます。身近にいる学生や同僚をはじめ、家族や 友人の子どもが当亊者であると思い描いてみてください。その方たちを断罪なさるのでしょうか?
先日は「性別違和」をもつ未就学園児への「いじめ」が報道されました。この幼い園児は「死にたい」と 訴え、登園できなくなりました。楊氏は性的少数者に出会っていると書かれていますが、トランスジェン ダーについての見識が不十分だと思います。性別は男性・女性・間性のみとされていますが、海外では 50 以上の性別表記が公にされています。私たちの想像を超える多様な性的少数者が存在している事 実を知ることがまず求められます。 『LGBTとキリスト教20人のストーリー』 (日本キリスト教団出版 局2022年3月発行)を同封しますのでご一読ください。書籍の帯には「LGBTから学ぶ その多様性 にみる神の愛」と記されています。上記要望について、よろしくお願い申しあげます。
貴大学の上に、主の導きをお祈りいたします。

 






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