【2.11平和集会】名古屋YWCAが講演会を開催 アジア女性資料センター代表理事・本山央子氏が講師、これまでと違う視点で「平和」を考える 

名古屋YWCA(名古屋市中区)は2月11日、天皇制度や平和を考える平和集会を開催した。毎年「信教の自由の日」に開かれる同集会は今年で50回を数え、今回はアジア女性資料センター代表理事の本山央子(もとやま・ひさこ)氏を講師に招き、「フェミニズムの視点から考える~日本の『戦後平和』と『新しい戦争』」と題した講演会を対面とオンラインの併用で行った。当日の会場参加は38人、オンライン参加は5人だった。また2月28日まで限定でアーカイブも配信され20人が視聴した。

講師の本山氏はユネスコ・アジア文化センター、FoE-Japan、アジア女性資料センターなどのNGOでジェンダー、開発、環境平和に関する活動に取り組み、ジェンダーと国際政治経済を研究している。現在は、アジア女性資料センター代表理事、そしてお茶の水女子大学ジェンダー研究所特任リサーチフェローでもある。

冒頭でまず述べたのは、「力の政治」が常にあからさまな人権の抑圧を伴うわけではなく、「女性の権利を守る」と言われる中においてもそこには家父長的なロジックが含まれていることに気をつけなければいけないということ。ジェンダーは、男と女が全く違う生き物であるという見方があたかも自然であるかのように社会や文化の中で作られ、意味をつけられているかを批判的に見ていくためのレンズでもあると伝えた。

講演では、これまでフェミニズムがどう議論され、今どんなことが課題になっているかを紹介した後、日本について「再軍事化とジェンダー主流化」という見出しで語った。その中で冷戦後の日本は、民主主義や人権といった普遍的価値を強調しながら軍事力を高めてきたことを明らかにした。近年ジェンダーを取り入れるといった政策を打ち出してはいても、それは男性中心の社会や異性愛での家族といったことを根本的には変えない範囲であると力を込めた。ジェンダー平等の日本語訳とされる「男女平等参画」という言葉もジェンダーとは似て非なるものだという。

また、安全保障にジェンダーの視点を入れていこうと政府が推進するWPSにも言及。当初外務省中心に推進されていたWPSが、今は防衛省が積極的に取り組んでいる状況を伝え、ジェンダーが軍事協力に使われていると危機感を示した。WPSの策定に関わってきた本山氏は、市民の声であった慰安婦問題、米軍基地での性暴力、難民といった事項が排除されていることを明かした。「ここに帝国主義や植民地主義の姿が見えてくる」と指摘し、沖縄米軍基地の性暴力について次のような見解を示した。

「今回外務省が沖縄県などに情報を共有していなかったことで大きな問題となったが、これまでにも逮捕に至らないケースはたくさんあり、たとえ至ったとしてもほとんどの場合が不起訴となり、最終的に処罰されないことが本当に多い。ここには不平等な日米地位協定といったことがあるのは確かだが、問題の核心は、安全・平和という名のもとで置かれている基地であるために、性暴力の被害者が社会的圧力をかけられていることを見えにくくさせていることだと思う。日本の中の家父長制的なものと国家安全保障ということがリンクしながら人々を黙らせ、被害者を黙らせていくという構造が見えてくる」

そして日本の軍事化が進む今、「戦後の平和」とは何だったのか問いかけた。

「私たちは、戦後平和と言ってきたが、かつての帝国主義・植民地主義を反省してきたことがあっただろうか。戦後70年談話で安倍元首相は、アメリカとの戦争に負けたことは語ったが、アジアを植民地支配してきたことには決して触れなかった。日本は明治時代からずっと帝国主義の拡張戦争をしてきたが、そのこと自体反省したことがあったかを改めて考える必要があるのではないか」

最後に「新しい戦争」というキーワードで語った。

「今の状況というのは、フェミニズが批判してきたことを取り込みながら、新たな軍事主義・帝国主義が再編成されている状況にある。これはフェミニズム運動の成果ではないが、誰かを黙らせたり、社会の中で抑圧されたりしていることが自然化していることを見抜くためのレンズだったジェンダーが、牙を抜かれながら取り込まれてきたのが現状かなと思っている。それでも、誰か他の人が私たちよりも命の価値が劣っていて暴力を振るっていいんだ、排除していいんだ、ということがどうして作り出されてしまうのかを見るためにジェンダーは重要。そうしたジェンダーを手放したくないと思っている。フェミニズムの平和の思想は、さまざまな違いを抱えながらも共に生き延びたいということ。フェミニズムを野蛮な人たちを倒すためだけに使わせないということを皆で考えていきたい」

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