国の文化審議会は18日、日本福音ルーテル久留米教会(福岡県久留米市)の礼拝堂と煉瓦(れんが)塀を登録有形文化財に指定するよう答申した。米国出身の建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880~1964)による設計で、九州に現存するヴォーリズ建築の中では最も古いものだという。
すでに登録有形文化財となったヴォーリズ建築は、学校では関西学院大学時計台(兵庫県西宮市)や同志社大学啓明館やアーモスト館(京都市)など、教会では日本基督教団・大阪教会(大阪市)や日本福音ルーテル岡崎教会(愛知県岡崎市)などがある。特に神戸女学院(兵庫県西宮市)のケンウッド館などは2014年に国の重要文化財に指定されている。このほか、個人宅やヴォーリズ記念病院旧本館(滋賀県近江八幡市)、大丸心斎橋店(大阪市)など、その種類も様式も多様だ。
同教会牧師の宮川幸祐(みやかわ・こうすけ)さん(38)に話を聞いた。
──答申では、「質実剛健な教会堂。全体に簡明で装飾は少ないが、合理的な平面構成や丁寧な仕上げは、ヴォーリズ初期の設計活動の特徴をよく示している」と評価されています。登録の決め手はどういった点にあるとお考えでしょうか。
この礼拝堂は1918(大正7)年に建てられたもので、昨年に献堂100周年を迎えました。建築的な特徴の一つは、赤煉瓦づくりであることです。木造や鉄筋コンクリートでなく、赤煉瓦を積んで教会の外壁がつくられているのです。建堂した5年後に関東大震災があり、それ以降は煉瓦づくりの建物は建てられなくなったため、現存する煉瓦づくりの建築というだけでも希少です。さらに、礼拝堂として建てられた建物が今日に至るまでその目的のままに用いられていることも評価の一つとなっているかもしれません。
久留米教会礼拝堂は、ヴォーリズが京都に建築設計監督事務所を設立して10年目に建てられたもので、初期の作品群のうちの一つといえるでしょう。全体として隅々まで配慮の行き届いた落ち着きのある居心地のよい空間となっており、ヴォーリズ建築の特徴がよく表れています。
また煉瓦塀は、煉瓦積みで造られた壁の表面に擬石づくりで装飾が施されており、建築当初の姿をそのまま残しています。こうした塀は現存しているものが少なく、たいへん貴重ということです。
──今後、どのようなことが期待できるでしょうか。
100年前は大きく聳(そび)え立つ礼拝堂だったでしょうが、今では周囲を大きなビルに囲まれ、大通りからはその姿を見ることができなくなってしまいました。だからこそ、こうした文化財登録などを通して、地域の方々にぜひ教会のことを知っていただきたいと願っています。そして、「100年間変わらず存在する礼拝堂がある」ということを通して、「いつも変わらず神様があなたと共にいてくださる」という福音を伝えてゆければと考えています。
──築100年ということで、維持の点でどんなことに気をつけていますか。
時代を超えて保たれてきた大切な礼拝堂ですから、その姿を未来に向けて残してゆけるよう、維持補修などは常に心がけています。ただ大切なのは、建物を維持すること自体でなく、そこに込められた人々の思いや祈りを伝えてゆくことです。その中では改修が必要になることもあります。たとえば、車椅子の方でも入りやすく、心配なく礼拝に共に集うことができるように、裏口にスロープが設置されました。こういうことを実現してゆくことも「維持」の一つです。
これからも、伝えるべき部分は伝え、変えるべき部分は変え、人々がいつも安心して集える礼拝堂であり続けたいと願っています。