ーーここまで流水さんを夢中にさせる聖書との出会いを教えてください。
父方が、正月の「福男選び」で知られる兵庫県・西宮神社の宮司の家系で、年を重ねるにつれそのルーツを意識するようになり、30歳を過ぎてからは毎日神社にお参りするという筋金入りの神道でした。それが2009年に、妻の実家である長崎県大村市の方からキリシタン大名・大村純忠(おおむら・すみただ)を題材にした小説を書いてほしいと依頼されて、純忠と同時代の宣教師ルイス・フロイスの小説も同時に書くことになり、彼らのことを知るための資料として聖書を読み始めました。その時点では聖書の知識はゼロですから、読んでもさっぱり分からなかったのですが、16年1月1日に、とある神秘体験をし、不思議なほど自然に内容があたまに入ってくるようになりました。
ーーどんな神秘体験だったのですか?
その日は妻の実家に行っていたのですが、本棚に妻が留学していた時に使っていた携帯用のバイリンガル聖書があって、それを何気なく手に取りパラパラ読み始めると、「空の鳥を見なさい……あなたがたの天の父は鳥を養ってくださる。あなたがたは、鳥より価値のあるものではないか」という箇所が目に留まり、心に刺さりました。そのまま自宅に持ち帰り、その箇所を集中的に読んでいると、「鳥は自分で稼ごうと思わなくても神さまが養ってくださっている。人間なんてもっと豊かに養われているのに、僕は何を心配することがるのだろう」と気持ちがすごく楽になり、救われた感じがしたのです。それ以来、苦労せずに聖書を読むことができるようになり、日本語でも英語でも複数の聖書を何度も通読しました。2年後の18年に2冊の本(『純忠 日本で最初にキリシタン大名になった男』『ルイス・フロイス戦国記 ジャパゥン』)を出版してからも、聖書を毎日読むのが習慣となっています。
神秘体験に関していえば実はもう一つあります。クリスチャンになると決めていた19年に、ローマ教皇が来日され、長崎と東京で行われたミサに行くことができました。感動したのは、11月25日に行われた東京のミサで読まれた聖書箇所がマタイによる福音書6章24〜34節で、僕が16年1月1日に読んだ箇所とぴったり重なっていたことです。これには鳥肌が立って涙がこぼれました。神さまは全てご存知だったと。もうこの道しかないと。僕は、自分が召し出されたのは、日本人にキリスト教を広めることを神さまに託されていると確信しているのですが、それはこういったエピソードがあるからです。
ーー20年に洗礼を受けられましたが、カトリックを選んだのはどうしてですか?
子ども頃プロテスタントの幼稚園に通っていたんです。クリスチャンになることを決めながらも教派を決められずにいた時に、その幼稚園を30数年ぶりに訪ねたのですが、なぜか戸が閉まっていたのです。それで自分はプロテスタントではないなと感じ、カトリックを選びました。これが決定打ですが、キリシタン時代の小説を書いたことや、18年に開催された大村市でシンポジウムで、上智大学前理事長でイエズス会司祭の髙祖敏明(こうそ・としあき)神父様と共演して意気投合したことも関係があるかもしれません。ただ、カトリックになったのは、僕の判断ではなく、神さまが道を備えてくださり、それは神さまからのメッセージと信じて従ったのみです。
カトリックにするかプロテスタントにするかで迷った場合、どっちが自分のフィーリングに合っているか、そういう選択があってもいいと思っています。本来は同じキリスト教ですし、両方が助け合って、宣教活動をしていくことが理想ではないかと。カトリックでは、神父様だとプロテスタントと一緒に活動をされている人はいますが、信徒ではまだまだ少ないので、自分がその一人になれたらと思っています。(3に続く)
せいりょういん・りゅうすい 1974年兵庫県生まれ。作家、英訳者。「The BBB(作家の英語圏進出プロジェクト)」編集長。京都大学在学中、『コズミック』(講談社)で第2回メフィスト賞を受賞。以降、『ジョーカー』『カーニバル』『彩紋家事件』と続くJDC(日本探偵倶楽部)シリーズなど、型破りのミステリー作品を多数発表。TOEICテストで満点を5回獲得、英語の勉強会を主催し、『社会人英語部の衝撃―TOEICテスト300点集団から900点集団へと変貌を遂げた大人たちの戦いの記録』など英語学習本も多数。2018年に『純忠―日本で最初にキリシタン大名になった男』と『ルイス・フロイス戦国記 ジャパゥン』を同時刊行。2020年7月20日に受洗し、カトリック信徒となる。