カトリック作家・清涼院流水さんインタビュー(3) 「学んでみたい」という気持ちが信仰生活を豊かにする

(2から続く)

ーー旧統一協会の問題もあって、宗教に対する目が厳しくなっていると思います。日本にキリスト教を広めるには何が大切だと思いますか。

今回の事件で『どろどろのキリスト教』は没になるかと思っていたら、その逆で、出版社がすごく期待していて、当初書くつもりのなかったカルト宗教のことも書いてほしいと言われました。カルト宗教と正統派宗教の違いを日本人は誰も知らないからということで。確かにそのとおりだと思い、正統派とカルトとはこんなに違うということを、作中で具体的に書いています。世間を騒がせているカルト宗教と正統派キリスト教とはこんなに違うということを分かってもらえれば、安心する人も多いのではないでしょうか。

その手の情報発信が日本のキリスト教会には圧倒的に足りていないと、今回の旧統一協会の問題を見ていて強く感じます。違いの分からない人にとって、カルトも正統派も一緒で、だから宗教は危険だと誤解されてしまう。そういう状況を徐々に変えることで、日本人がもっと宗教とカジュアルに接することができるようになってほしいと考えています。それには情報開示しかないと思っていて、いろいろなことを知ったうえで、気軽に宗教選択ができる時代に近づけたらなと。

ーーそういう意味では、『どろどろの聖書』はキリスト教の情報開示の本といえますね。

「聖書がこんなどろどろだと、みんなキリスト教を嫌がるのではないか」という感想が結構寄せられたのですが、僕は日本人にクリスチャンの強さを知ってほしかった。確かに聖書には、ノンクリスチャンがドン引きするようなところもあるけれど、それを丸ごと受け止めてしまうのがクリスチャン。それが聖書のすごさであり、クリスチャンという人種の不思議でもあり、それを『どろどろの聖書』でお伝えしたかった。

次回作『どろどろのキリスト教』でもそういう感想は出ると思っています。惨たらしい歴史の物語ですから。でも現代のクリスチャンはその歴史の上に立ち、それらを全部受け止めていることを伝えたい。キリシタン弾圧があっても信じ続けるキリスト信徒の姿は美しいですが、そのことを伝えるには、迫害の歴史をしっかり書かなければなりません。それと同様に、暴君のネロが行ったような迫害があればこそ、ペトロやパウロの聖性が際立つのではないかと。そういうことを今考えさせられていて、『どろどろのキリスト教』は単なる前作の続編ではなく、自分の壮大なビジョンの第一歩になると思っています。

ーー「いのフェス」では、「生涯を通じて学び続ける意味とは?」というテーマで対談をされますが、このテーマはキリスト教とどう関係してくるのでしょうか。

「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ」というマハトマ・ガンジーの言葉がとても気に入っていて、たとえば、高齢になった人で、もう学んでもモノにならないと思っている人と、年齢に関係なく学ぶ人とは自ずと人生の充実度が変わってきます。より良い生き方をするうえで、学び続けることは大事な選択肢です。その選択肢は英語でもいいですし、キリスト教とか宗教でもいいと思っています。

クリスチャン生活が当たり前になってくると学ばない可能性があります。毎週ミサや礼拝に出ていれば敬虔なクリスチャンだろうと。説教を聞いていれば学んでいることになるのかもしれませんが、受動的に聞き流しているだけかもしれません。そこに「学ぶ」という意識があれば、説教の受け止め方は全然違ってくるはずです。単にクリスチャンでいることも素晴らしいことですが、さらにキリスト教や聖書のことを「学んでみたいな」という気持ちが生じたら、信仰生活に新たな豊かさが与えられ、より充実したクリスチャンライフになる可能性があるのではないか、そういう問題提起をいのフェスからしてみたいと思っています。

ーー「質より量」という不毛な勉強法をどう克服するかも語り合っていただきたいです。

英語学習で感じてきたのは、意識が変わらないと毎日勉強しても成長しないということです。これはすごく怖いことで、でも、何か気づくと人って短期間で成長します。費やした時間より重要なのは意識だと思っていて、それは信仰生活でも同じではないでしょうか。パウロではありませんが、対談での話が「目からウロコ」になるといいなと思っています。

今回、「いのフェス」からオファーを受けた時に、対談の相手はノンクリスチャンでということだったので、いろいろ考えた末、昔からの英語学習仲間である藤枝さんにお願いしました。ノンクリスチャンである藤枝さんから見たキリスト教についても聞いてみたいと思っています。それから時間があれば、同じクリスチャン作家である遠藤周作先生や三浦綾子先生についても話したいですね。

 せいりょういん・りゅうすい 1974年兵庫県生まれ。作家、英訳者。「The BBB(作家の英語圏進出プロジェクト)」編集長。京都大学在学中、『コズミック』(講談社)で第2回メフィスト賞を受賞。以降、『ジョーカー』『カーニバル』『彩紋家事件』と続くJDC(日本探偵倶楽部)シリーズなど、型破りのミステリー作品を多数発表。TOEICテストで満点を5回獲得、英語の勉強会を主催し、『社会人英語部の衝撃―TOEICテスト300点集団から900点集団へと変貌を遂げた大人たちの戦いの記録』など英語学習本も多数。2018年に『純忠―日本で最初にキリシタン大名になった男』と『ルイス・フロイス戦国記 ジャパゥン』を同時刊行。2020年7月20日に受洗し、カトリック信徒となる。

 






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