経済学者の浜矩子(はま・のりこ)さんと神学者の福嶋揚(ふくしま・よう)さんの対談「金と神──経済学と神学の対話」(共催:日本基督教団出版局)が16日、日本基督教団・西片町教会(東京都文京区)で開催され、103人が集まった。
浜さんは同志社大学大学院教授で、メディアでもコメンテーターとして活躍する。6歳の時に洗礼を受け、現在、カトリック渋谷教会員。一方、福嶋さんは、青山学院大学、東京神学大学、日本聖書神学校で兼任講師を務める。
まず浜さんの講演から。
「『Gold』(金)と『God』(神)の違いはL(エル)だけ。Lを頭文字に持つ単語に『Lust』(強い欲望)と『Love』(愛)がありますが、人間が欲望丸出しで行動すると、金と神の関係は絶対に相まみえることがありません。しかし愛があれば、二つの関係は非常に密着したものになります」
続いて、経済活動の3要素であるヒト・モノ・カネについて語った。それぞれを頂点とした三角形をイメージした場合、ヒトが最も大きな一辺が与えられ、それを支えるためにカネとモノがあるというのが本来のあり方。しかし、現在ではカネが最も重視され、ヒトもモノも、どれだけカネを生み出せるかでその価値が決められ、ヒトとカネとのバランスが崩れているという。
「経済活動が人間を幸せにするのでなければ、経済活動の名に値しないというのが私の基本的な出発点。経済活動というは、人間しか携われないもので、神が人間に与えられた使命なのかもしれないという気がします。その使命を人間がきちんと果たしていれば、経済活動は人間を幸せにできるはず。だから、LoveのLを使えば、人間は経済活動の担い手としてあるべき行動をとっていると言えます」
では、神の世界に経済活動が接近した時、どのような世界が実現するのだろうか。浜さんは次の聖書箇所を引用した。「狼は小羊と共に宿り、豹(ひょう)は子山羊と共に伏す。子牛は若獅子(わかじし)と共に育ち、小さい子供がそれらを導く。……乳飲み子は毒蛇の穴に戯(たわむ)れ、幼子は蝮(まむし)の巣に手を入れる」(イザヤ11:6〜8)
「人の痛みを自分の痛みとし、人のために涙できる経済活動であるとき、経済の世界は間違いなく、狼と小羊が共に宿る世界になると思います。そして、GoldのLは間違いなくLoveのLになる。
どんな人も一緒に歩んでいくことができ、みんなの間に絆(きずな)ができる。幼子が危険な場所に入っていっても大丈夫で、虐待などない世界。そういう世界に経済活動が辿(たど)りついたとき、神の国と最も近い世界になるのではないでしょうか」
浜さんの講演に続き、対談が行われた。浜さんの著書の中にキリスト教のエッセンスが見られると福島さんが言うと、浜さんは次のように答えた。
「エコノミストとして真正面から経済に向き合って考えていく中で、聖書のイメージが浮かび上がってきたり、キリストの言葉が浮かんできたりすることを、ある時期から感じ始めました。30代前半くらいからなのですが、それは経済の力学がそれなりに分かってきた頃です」
最後に、近未来の社会ビジョンについて次のように語った。
「資本主義の時代が終わると同時に、今は資本の凶暴性が発揮される非常に怖い社会になってきている面があります。それにとらわれ、人間がモノ化しないためには、人と人との絆の中で生きる価値を見いだすことが必要。人のために泣けるケアを大切にし、痛みの分かる人同士がシェアしていく。そういうケアリング・シェア社会を作ることができれば、私たちは凶暴化した資本の手を振り払って、まさに人本位の社会を作っていけるのではないでしょうか」