東洋英和女学院(東京都港区)は10日、2時間に及ぶ記者会見を開き、院長だった深井智朗(ふかい・ともあき)氏を懲戒解雇にすることを発表した。
会見には、同学院理事長の増渕稔(ますぶち・みのる)氏、同大学学長の池田明史(いけだ・あきふみ)氏、副学長で調査委員委員長の佐藤智美(さとう・さとみ)氏、調査委員で弁護士の荒巻慶士(あらまき・けいじ)氏の4人が臨んだ。
冒頭に増渕理事長が伝えたのは、同学院内の調査委員会による調査結果において、深井氏の研究活動における不正行為が認定されたことと、それを受けて臨時理事会で深井氏を懲戒解雇にすることが決定したことだ。その上で、深井氏が院長という要職にありながら、今回、不正行為が発覚し、その後の懲戒解雇に至ったことについて謝罪し、4人で頭を下げた。
次いで、調査委員会の委員長である佐藤副学長が、調査の概要と経緯、結果について説明した。調査の発端は昨年10月4日、「キリスト新聞」のホームページに掲載された「日本基督教学会 深井智朗氏への公開質問状と回答を学会誌に掲載」という記事を同大学職員が偶然見つけたことによる。
記事の内容は、日本基督教学会の学会誌『日本の神学』57号(2018年版)に、小柳敦史氏(北海学園大学准教授)による深井氏への公開質問状と、深井氏による回答(暫定報告)が掲載されたことを伝えるもの。
深井氏の著作『ヴァイマールの聖なる政治的精神──ドイツ・ナショナリズムとプロテスタンティズム』(岩波書店)などの注と資料の実在に関する問題2点が提示され、それに対して深井氏は、「定められた頁数の中で書いた原稿で、注や参考文献を途中かなり削り、内容も行単位で規制されて書き、校正する中で、注については割愛せざるを得ませんでした」「誤りがあれば訂正し、問いにお答えしなければなりません。その準備はもちろんいつでもあります」と応じたという。
この問題について同大学に直接告発があったわけではないが、「東洋英和女学院大学研究活動上の不正行為防止に関する規程」第8条第10項(「研究者等が……報道により不正行為の疑いを指摘された場合は、本学に告発があった場合に準じた取扱いをすることができるものとする」)に基づき、予備調査を経て調査委員会を設置。深井氏が以前勤めていた金城学院大学や聖学院大学からの協力も得て、研究活動上の不正行為の有無を、2018年10月17日から6カ月にわたって調査した(予備調査を含む。調査委員会は2018年11月23日から19年3月15日までの7回開かれた)。
調査委員会のメンバーは、委員長の佐藤副学長のほか、同大学から、ヨーロッパの政治を研究している小久保康之(こくぼ・やすゆき)氏(国際社会学部長)と事務部長の杉崎勝(すぎさき・まさる)氏、学外からは、深井氏と聖学院大学で共に教え、日本基督教団・滝野川教会の後任牧師でもある阿久戸光晴(あくど・みつはる)氏(福岡女学院大学学長)、オランダ政治史が専門で、『ポピュリズムとは何か──民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書)で石橋湛山賞を受賞した水島治郎(みずしま・じろう)氏(千葉大学法政経学部教授)、弁護士の荒巻氏。
調査対象となったのは、前出の『ヴァイマールの聖なる政治的精神』(2012年)と、雑誌「図書」(岩波書店、15年)に掲載された論考「エルンスト・トレルチの家計簿」。特に、前者で4ページにわたって取り上げられている神学者「カール・レーフラー」とその論文「今日の神学にとってのニーチェ」、後者ではトレルチ家に属する借用書や領収書が実際に存在するのか、その信ぴょう性が問題視された。
深井氏は調査委員会に対して、「カール・レーフラーという名前の神学者が存在しないことは認めるが、似た名前のドイツ人美術史家がいる」と主張したものの、最後までそのことを客観的に示すことができなかった。また、論文「今日の神学にとってのニーチェ」についても、違うタイトルの論文を深井氏が調査委員会に提出したが、その内容からは、ドイツで公表された論文の形跡が見られず、深井氏自身も「発表媒体や公刊の有無は分からない」と答えている。さらに、W・パネンベルグ著『組織神学の根本問題』(日本基督教団出版局)からの盗用も認められた。
「エルンスト・トレルチの家計簿」の中で、自ら発見したと述べられている資料は、神学者アドルフ・フォン・ハルナックによって書かれたプロイセン科学アカデミーの議事録であって、トレルチの家計とは無関係。さらに、現在では使われていないドイツ語で書かれており、深井氏自身も読めなかったという。
そのことについて深井氏は、「ハルナックの議事録とは知らなかった。トレルチの生誕150年を祝って何か書きたいと思っていたところ、トレルチの家計簿があるとミュンヘンの友人に教えられ、手に入れた。よく読めなかったが、友人たちと議論しながら書いた」と述べている。
この発言に対して佐藤副学長は、「論考を想像で書いた」とあきれ、「深井氏が違った資料を故意に使って書いたわけでなかったとしても、故意でないことを立証できていない」と厳しく指摘した。(後編に続く)