教会でのメディア活動の可能性を探る 超教派による動画ワークショップを開催

動画ワークショップの特別イベント「動画で拓く 次世代の信仰継承」(キリスト教動画伝道ネットワーク主催)が7月6日、日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団山手町教会(北海道苫小牧市)およびオンライン(Zoom、YouTube)のハイブリットで開催された。教会や学校でオンライン配信などに取り組んでいる20人が教派を超えて現地に集まり、教会におけるメディア活用の意義や方法についてヒントを探った。

イベントは2部形式で行われた。第1部はキリスト教動画伝道ネットワーク主宰者の片岡賢蔵氏(日本基督教団東中通教会牧師)が「今教会が動画を活用する理由(わけ)」と題して講演を行った。元テレビディレクターの片岡氏はその経験を生かし、教会の動画づくりに長年携わってきた。その一方で、「メディアと伝道」をテーマとし、神学的な観点からメディアのあり方を研究している。

片岡賢蔵氏

礼拝とメディアの共通点として、対象となるものが目に見えないところでつながっていることを挙げる。その共通点から教会でのメディア戦略のヒントが見えてくるのではないかと話した。その際、注目すべきことは「眼差しの応答」だという。片岡氏は「人は見られて見つめ返すことで健やかな成長がある」と述べ、「礼拝の中では常に見つめ見つめ返されていることが行われ、神の大きな眼差しの中で成長できている」と発言。自分に向けられている情報の眼差しであれば、たとえそれがメディアを介したものであっても、信頼し向き合うことができるのではないかと力を込めた。

また具体例から、教会における動画の用い方にも言及した。教会が作るクリスマスのチラシなどによく見られる「本物のクリスマスを教会で!」といったコピーは、「本物」という言葉の意味が不明瞭であるため、かえって教会から足を遠のけさせてしまいかねないと指摘し、それを防ぐためには教会員が礼拝する様子を動画で見せるなどすることで「『本物』とはこういうことか」とイメージできるのではないかと話した。テキストデータだけでは取りこぼしてしまっているものを、動画を使って表現することができる。動画伝道は、これまでの伝道方法では足りなかったところや届かなかったところに「現実を拡張していく」ことのできるツールだと語った。

第2部は、日本アッセンブリーズ・オブ・ゴッド教団山手町教会牧師の大坂太郎氏と同教団境港キリスト教会牧師の長谷川忠幸氏が登壇し、片岡氏も交えての鼎談が行われた。大坂氏は、スマホ1台からライブ配信を始めて、今や過疎地の伝道所など複数箇所をつないでの双方向配信の礼拝を実現させている。一方長谷川氏は、15年前からインターネットを使った遠隔地の無牧教会の牧会に取り組む双方向配信のパイオニア的存在だ。

左から片岡賢蔵氏、長谷川忠幸氏、大坂太郎氏

両氏とも、教会に来たくても来られない人たちに、会堂にいる人たちと遜色がない礼拝を届けたいという思いから独学でIT技術を学び、オンライン配信を発展させてきた。鼎談は、これまでの経験を踏まえつつ会場からの質問に応える形で進められた。会場からは、マイクの効果的な使い方や、機材の揃え方などの技術的な質問から、オンライン配信のスタッフをどのように育てていけばいいのかなど人材に関することまで幅広い質問が寄せられた。

スタッフ養成とは別に受け手側の環境整備の必要性も語られた。特にITを苦手とする高齢者へのフォローの必要性については両氏ともに言及。長谷川氏は、マウスの使い方もままならない高齢者のために、パソコンとカメラをレンタルし、礼拝当日にはパソコンの遠隔操機能などを用いたサポートを行っている。大坂氏も、リサイクルショップなどでYouTubeをテレビとリモコンで視聴できるデバイスを格安で購入し、必要のある人の家に行って設置と機能説明をし、現在はオンライン礼拝などのコンテンツを楽しんでいる高齢者の例などを語った。

またオンライン礼拝をどこまでオープンにするかも議論された。長谷川氏は、コロナ禍を経て日本の教会にリモート技術の普及が進まなかった大きな要因は、礼拝のオープン化を危険視する態度にあると指摘する。また教会がいかに自意識過剰であるかを、YouTubeの登録者数から分析。悪意を持って動画を見る人の可能性は限りなくゼロに近く、むしろ悪意を持って見る人がいないことに危機感を持つべきではないかと苦言を呈した上で、教会員のためだけならZoomを、教会のことをもっと知ってほしいならばZoomとYouTubeの併用といった棲み分けを教会の特性に合わせてやっていけばいいのではないかと提案した。

片岡氏は、YouTubeで一般公開する場合の問題点として、誰が見ているかこちらがわからないことを挙げた。大坂氏は、YouTubeで動画をただ流しているだけならば、1980年代のテレビ伝道と変わらないと発言。長谷川氏は、礼拝儀式の本質的なものを表現したいと思っているので、双方向の配信にこだわっているが、同時にその双方向の様子をYouTubeで公開し、外部の人たちに見てもらうようにしていることを明かした。

共に企画運営に携わった大坂氏は、「片岡氏が講演で主張されたように、神と人、そして人と人をつなぐという意味で、もともと双方向をもった礼拝がオンライン技術の長足の進歩により、空間を越えた『同刻性』を獲得するに至った今、教会と信徒、教会と教会、教会と世界のそれぞれの現実を拡張するツールとしていかに有効に機能させられるかが今後の課題」と振り返った。

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