今日8月1日はハーマン・メルヴィルの誕生日。『白鯨』で知られる米国の小説家です。『白鯨』は、先日(7月30日の今日は何の日)で紹介したエミリー・ブロンテの『嵐が丘』とシェークスピアの『リア王』に並ぶ「英米文学の三大悲劇」とされます。
メルヴィルはオランダ改革派教会で幼児洗礼を受けたクリスチャンで、『白鯨』も聖書を知っていると、より興味深く読み進めることができます。
白いマッコウクジラ(モービィ・ディック)とエイハブ船長の対決を軸に、捕鯨船の悲劇的な末路を描いた物語です。エイハブ船長はかつて白鯨に片足を食いちぎられた経験があり、その復讐を誓うのです。
エイハブ船長は、北イスラエルの第7代のアハブ王の名から取られています。異邦人のイゼベルを王妃に迎えたことから、偶像であるバアル礼拝をするようになり、預言者エリヤから批判されました(列王記、歴代誌に登場)。エイハブ船長の捕鯨期間40年というのも、出エジプトしたイスラエルの民が約束の地にたどりつくまでの期間を示しています。
16章に登場するイライジャは、預言者エリヤのこと。「エイハブ船長の捕鯨船は呪われている」と警告します。
また、エイハブ船長に忠告するクエーカー教徒のビルダド船長の名前は、ヨブ記でヨブを批判する友人ビルダデに由来します。
物語の語り手イシュメールは、イサクの異母兄イシュマエルにちなんでいます。アブラハムとサラの間にはずっと子が生まれなかったので、女奴隷ハガルに生ませた子どもです。しかしその後、サラがイサクを身ごもったために、アブラハムの跡取りにはなれませんでした。
新約聖書でイシュマエルは、旧約を象徴するといわれます(ガラテヤ4:24)。旧約とは、神の命令を守れば祝福されるという古い契約です。つまり主要な登場人物は、新約のキリストによる救いが訪れるまで、神の命令を守れない人間の現実を象徴しているのです。
ちなみに聖書とは関係ありませんが、エイハブ船長を諌(いさ)める冷静な一等航海士スターバックは、コーヒーチェーン店「スターバックス」の名前の由来です。
7~9章において、鯨捕りたちのための教会でマップル牧師がヨナ書から説教しています。神の命令から逃げた預言者ヨナは、海上で嵐に出会い、巨大な魚に呑(の)み込まれます。三日三晩、魚の腹の中にいたヨナは、神に悔い改めを祈ると、魚はヨナを陸地に吐き出し、ヨナは神の命令に従うという物語。メルヴィルはこのヨナ書を下敷きに、悔い改めずに復讐を偶像礼拝している男(エイハブ船長)と神(白鯨)との戦いを書いているのです。
「あなたがたも聞いているとおり、『目には目を、歯には歯を』と命じられている。しかし、わたしは言っておく。悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい」(マタイ5:38~39)
私たちも人間のどうしようもない現実から「出エジプト」して、キリストの真実に生きたいですね。