アメリカン・ボード諸学校の歴史と特質 9校について研究者が語り合う 神戸女学院・同志社・同志社女子・梅花・共愛・松山東雲・松山学院・頌栄・聖和

アメリカン・ボードやその関係者らにより明治期に創設された九つの学校の歴史と特質を振り返る講演会「アメリカン・ボードと日本のキリスト教主義学校――神戸女学院・同志社創立150周年を記念して」が2月18日、同志社礼拝堂(京都市上京区)を会場に開催され、会場とオンライン配信あわせて約190人が参加した。

これは、同志社大学人文科学研究所 第21期(2021~24年度)の部門研究会の一つとして行われてきた会衆派(組合)教会をめぐる共同研究の成果というべきもので、アメリカン・ボードという同じ幹に連なる九つの学校が、それぞれ多様な特質を持つことが示された。

当日は、10人の登壇者が一人8分の持ち時間でそれぞれのテーマ・対象について述べるという方式で行われた。

主催者あいさつなどに続き、最初の登壇者として蘇哲誠氏(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程・後期)が、アメリカン・ボードの教育宣教方針が担当主事の交代により時期ごとに変化してきたことを示した上で、神戸女学院について中野敬一(神戸女学院大学教授・学長)、同志社英学校について神田朋美(同志社大学大学院神学研究科博士課程・後期)、同志社女学校について山下智子(同志社女子大学 教授)、梅花女学校について髙田太(梅花女子大学教授)、神戸女子神学校について小見のぞみ(関西学院短期大学教授)、松山女学校について水島祥子(頌栄短期大学助教)、前橋英和女学校について古澤健太郎(共愛学園前橋国際大学講師)、頌栄保母伝習所について森田喜基(同志社大学キリスト教文化センター准教授)、松山夜学校について相澤弘典(頌栄保育学院院長・理事長)の各氏が歴史や特色についてそれぞれ語った。

森田氏は研究会を代表し、アメリカン・ボードという同じルーツを持つ諸学校でもそれぞれ異なる点が多く存在すると指摘したが、9人の講演内容はその指摘を裏付けるものであった。例えば、神戸女学院は宣教師と深い関係を持ち、現在もキャンパス内の各建物に宣教師の名前をつけているのに対し、梅花女学校は財政的な「自給」を重視し、宣教師・アメリカン・ボードと緊張関係のある時期も多かったという。また、新島襄を校祖とする同志社でも、男子の英学校と女学校で新島没後の反応が異なっていることや、女学校の場合、新島に加えて女性宣教師たちの残した伝統の影響も大きいことなどが指摘された。あるいは、多くの学校が富裕な階層の子女を対象としていたのに対し、その幹には、貧困層を対象とし、教育から遠ざけられていた人々にまでキリスト教教育の裾野をひろげようとした松山夜学校(現・松山学院高校)や、日本で最初のキリスト教主義の保育者養成校である頌栄保母伝習所(現・頌栄保育学院)も連なるなど、対象とする人々や教育レベル・専門性なども多岐にわたることが示された。

講演会の内容は、『人文研ブックレット』として刊行され、無料配布される予定。

講演会の感想

佐々木 結(同志社大学神学研究科博士後期 専門:日本キリスト教史)

本講演会が示した意義は大きい。まず、歴史研究としては、これまで個別の学校史として研究されることが主であった日本におけるキリスト教教育に対し、宣教団を幹としてそれに連なる諸学校を俯瞰・比較するという視点が導入された点。これにより各学校およびその研究者は、それぞれの伝統や特徴を、教派や神学に由来するものと、創立者や地域状況など個別・具体的な要請から生み出されたものとに区別することができるのではないか。前者は、日本におけるアメリカン・ボードの教育宣教活動の特徴を明らかにすることにつながり、後者は各学校のかけがえのない特質を認識するための手がかりとなるだろう。

また、昨今キリスト教学校でも定員割れや募集停止も相次いでいる。こうした状況に対してキリスト教界に求められているのは、単なる「合理化」ではなく各校の伝統と特質を最大限活かして業界を再編することである。採算性だけに基づく統廃合や、理想に固執した非現実的な学校経営による廃校やさらなる価値低下を避け、キリスト教教育として守り続けなければならないものを見極めて残し、手放さざるを得ないものは手放し、重なり合う部分は手を携えてより良くしつつ、様々な地域・分野・領域に隙間なくキリスト教教育を継続していくためには、従来の自校史を超えた大きな枠組みで、キリスト教教育を捉え直すことが必要である。本講演で示された視点には、そのためのヒントが多く含まれているように感じられた。

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