現状の政治に不満を抱くマイノリティ有権者は、経済的・社会的安定を求めてトランプ氏に目を向けた。サミュエル・ロドリゲス牧師が、ヒスパニック系およびラテン系男性の間でドナルド・トランプ氏が人気を博している理由について考えた時、頭に浮かんだのは「戦え、戦え、戦え」という言葉だった。これは、暗殺者の銃弾を辛うじて逃れた後、ペンシルベニア州バトラーでトランプ氏が集会参加者を先導した時の掛け声である。「クリスチャニティ・トゥデイ」が報じた。
全米ヒスパニック・クリスチャン・リーダーシップ会議の会長であるロドリゲス氏は、過去3回の大統領選でトランプ氏を支持し、大統領就任式でも祈りを捧げた。しかし、今年はヒスパニック系キリスト教徒の男性がさらに多く彼に味方した。「男同士という要因がそこにあった事実を否定することはできません」と、カリフォルニア州サクラメントのニューシーズン教会の牧師であるロドリゲス氏は語った。「ダウン、文字通りダウンし、全世界の前で血を流した男が立ち上がるという話です」
暗殺未遂事件の後、ロドリゲス氏は2020年にジョー・バイデン大統領に投票したヒスパニック系の牧師と会った。今度はその牧師がロドリゲス氏にトランプ氏を支持すると告げた。ロドリゲス氏によると、その牧師はトランプ政権下の経済に関わる記憶、さらに共和党候補者が銃撃事件に対処した方法への全き賞賛により、トランプ氏を支持すると決めたという。「私は完全にトランプ氏を支持します」と彼は言った。
ロドリゲス氏は、暗殺未遂事件に対するトランプ氏の対応が、政治的に特に積極的ではなかった特定の男性たちの関心をどう捉えたかに気づいた。彼らは給料を伸ばし、家族を養い、経済的な逆風に対処することに集中してきたが、ひとたび選挙運動をフォローし始めると、そのメッセージ(「私は完全にトランプ氏を支持します」)が共に鳴り響いた。
白人および労働者階級の有権者はトランプ氏にとって最も強力な票田であったが、次期大統領はヒスパニック系および黒人有権者層でも、特に男性や大学学位を持たない人々において、民主党のカマラ・ハリス候補の票を奪った。
トランプ氏はヒスパニック系有権者の獲得票数を伸ばし、共和党候補としては初めて、ヒスパニック系男性部門全体で勝利し、55%を獲得した。CNNによると、トランプ氏はヒスパニック系プロテスタントから最も高い支持を得ており、今年トランプ氏に投票したヒスパニック系プロテスタントは64%で、バイデン氏が過半数を獲得した2020年の48%から増加している。
ハリス氏は黒人有権者の大半を確保したものの、(トランプ)次期大統領は、共和党員としては過去50年近くで最も多くの黒人有権者を獲得したとCNNは報じた。黒人男性の21%を獲得し、2020年より約2ポイント増加した。
彼の得票率の向上は、45歳未満の黒人男性の間で集中して見られた。この年齢層の黒人男性の10人に3人がトランプ氏に投票した。黒人プロテスタントは、無宗教の黒人有権者と同程度の13%前後で、トランプ氏を支持した。
白人有権者よりも黒人およびヒスパニック系有権者の方が、男女間の格差が大きかった。トランプ氏はヒスパニック系女性の38%しか獲得できず、黒人女性の間では2桁にも届かなかった(7%)。
経済的不満は、今回の選挙ではあらゆる層で根本的な懸念事項となっていた。トランプ氏を支持した黒人有権者の少数派の間では、これが動機付けの要因となったと、トランプ陣営の黒人連合のエグゼクティブ・ディレクターであるジーナ・バー氏は述べている。
彼女の働きかけの多くは、黒人教会が関わっており、黒人牧師との円卓会議や全国規模の電話会議も含まれていた。「彼らは、信徒たちが生活費を工面するのに奮闘したり、保育所を見つけたり、仕事を見つけたり、小規模なビジネスをしている場合は、なんとか営業を続けようと踏ん張っているのを見ている」とバー氏。「牧師たちは最前線に立っています。彼らはそれを知っています。彼らは、自分たちの同胞が苦しんでいることを知っています」
バー氏は牧師の子ども(PK=pastor’s kid)であり、自らも聖職者として叙任されているため、牧師たちを激励する演説をすることはまったく抵抗がなかった。彼女は彼らにこう語った。「いいですか、私たちは立ち上がり、説教壇から声を張り上げたいと思うことがよくあります。しかし、私たちは団結しなければなりません」
彼女は、激戦州に焦点を当てた選挙運動イニシアティブ「Believers for Trump」と緊密に連携した。
トランプ氏を支持した黒人指導者たちは、時にコミュニティからの反発に直面した。多くの黒人有権者は、トランプ政権が再び誕生すれば、多様性や公民権運動が廃止されるのではないかと懸念し、「黒人の仕事」といったトランプ氏の発言など、次期大統領によるマイノリティに対するステレオタイプな表現を問題視している。
批判に対して、バール氏は、黒人有権者が民主党の政治家たちに影響を与える機会があるだけでは、結局は黒人有権者にとって重要なことへの優先順位が妨げられると述べた。「あなたがたが会議に出席する時間が半分だけだとしたら、それはつまり、あなた方の問題が半分しか扱われないということだ」と彼女は語った。
マーリン・J・リード牧師は政治から目を背けることはなく、彼のソーシャルメディアのフィードは政治的な論評で溢れている。リード氏は2016年からトランプ氏を支持しており、今年、トランプ陣営の信仰に関するアウトリーチを主導したベン・カーソン氏を自身の教会に招いた。
ミシガン州リボニアにあるニュー・ワイン・グローリー・ミニストリーズには、日曜日に400人から500人の出席者が集まる。リード氏は、文化戦争に関する討論、すなわち親の権利やトランスジェンダーの問題、そして米国とメキシコの国境に関する懸念が、地域の人々を共和党に投票させる原動力になっていると見ている。
「投票先を変えた人の大半は、トランプ氏に投票したわけではないと思います」とリード氏は語った。「彼らは、問題に対して反対票を投じたのです」
選挙集会で、トランプ氏はトランスジェンダーのスポーツ選手について触れ、「男性を女子スポーツから排除する」と公約した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、トランプ陣営はトランスジェンダーの問題を前面に押し出した広告に3700万ドルを投じた。そのうちの一つは有権者に対して、「カマラは彼ら/彼女らのために(政治を行うが)、トランプ大統領はあなたのために(政治を行う)」と訴えた。
トランプ陣営は、この広告は黒人とラテン系の男性に最も効果的だったと述べ、ハリス氏のスーパーPAC(政治活動委員会)「フューチャー・フォワード」は、この広告を見た視聴者の間で、選挙戦の流れをトランプ氏寄りに3ポイント近く変えたと言った、とニューヨーク・タイムズ紙が報じている。
有権者の問題や態度に関する調査を行うAP VoteCastは、米国の有権者の半数が「政府や社会においてトランスジェンダーの権利を支持すること」は「行き過ぎだ」と答えたことが分かった。トランプ氏に投票した有権者のうち、85%が同意した。
ロドリゲス氏は、同様の意見を耳にしたと述べた。「『子どもたちに手を出すな。』それだけだった。それが転換点だったのかもしれない」と彼は語った。
家族は要因の一つだった。CNNの出口調査によると、2020年には3分の1程度だったのに対し、2024年には既婚ヒスパニック系有権者の大半がトランプ氏に投票した。
リブレ・イニシアティブのダニエル・ガルザ代表は、民主党に置き去りにされたと感じている労働者階級の有権者から話を聞いた。
「以前は、ラテン系の人々が考慮されるのは民主党だけでした。民主党はその関係を利用し、自分たちの優先事項や環境問題、中絶、文化的な問題を押し付けてきました」とガルザ氏は語った。リバタリアン寄りの同氏の組織は、経済、移民改革、教育、ヘルス・ケアに重点を置いている。
「アメリカを愛し、神を愛し、家族を大切にする私たちを、党の一部の人々は見下しているように感じました」と彼は言った。「侮辱的でした」
バー氏は、民主党の古くからの有権者から、党が自分たちの経済的な不安を真剣に聞いていないと感じているという意見を聞いたと述べた。
「私たちが利益を得たというだけでなく、ハリス副大統領のパフォーマンスが良くなかったことも理由です。彼女のパフォーマンスが良くなかった理由は、問題解決への信頼がなかったからです」とバー氏は述べた。「ですから、人々は投票所に行くよりも家にいることを選ぶのです」
「人々の最大の関心事は『子供たちがいる。彼らに食べ物を与え、この家を守らなければならない』ということでした。そして、生活費はどんどん高騰していきます」リード氏は言う。「ガソリン代も、交通費も、光熱費も。卵や牛乳、つまり基本的なものを買うのも高くなっています。そして、それは労働者階級の人々を苦しめていました」とリード氏は語った。
デトロイトの自動車産業でレイオフを心配する労働者から話を聞いたリード氏は、トランプ氏の「私の任期が終わる頃には、世界中が『ミシガン州の奇跡』について話題にすることになる」という公約を高く評価している。
メリーランド州ベルツビルにあるホープ・クリスチャン教会の主任牧師ミシェル・ジャクソン氏のもとには、大統領選の候補者たちを支持する信徒が両陣営から集まっている。トランプ氏を支持する人々は、一般的に「安全、治安、雇用、経済、家族」を重視しているとジャクソン氏は言う。
「彼らはトランプ大統領が掲げるものすべてに多少の懸念を抱いているかもしれませんが、トランプ氏は彼らの価値観を守ってくれることは知っています。そして、彼らにとって最も重要なのはその価値観なのです」と、故ハリー・ジャクソン・ジュニア司教の娘であり、著名な保守派の牧師であり、トランプ氏の信仰上のアドバイザーでもあるジャクソン氏は語った。
ジャクソン氏は、マイノリティ有権者が関心を寄せる問題の範囲が見落とされたり、単純化されすぎたりすることが多いと考えている。
「命の問題、胎内だけでなく社会における子供たちの保護、法と秩序の問題、そして戦争への関与の仕方などです」と彼女は言う。「メディアは、アフリカ系アメリカ人が関心を寄せていないと決めつけることがあります」
ヒスパニック系男性にとって経済は重要な要素だが、国境沿いの州では信仰共同体は移民政策も注視していた。テキサス州のヒスパニック系牧師グループは、選挙後、テキストメッセージで、強制送還が自分たちの教会にどのような影響を与えるかについて話し合っていた。ある牧師は、懸念されるべきなのは犯罪者や麻薬カルテルのメンバーだけだと述べた。
テキサス州ヒスパニック・バプテスト連盟のジェシー・リンコンズ事務局長はより懸念を抱いていた。彼は、トランプ氏が「アメリカ史上最大の強制送還作戦を実施する」と選挙期間中に公約したこと、また、トランプ氏のアドバイザーであるスティーブン・ミラー氏が「幼少期に米国に不法入国した人々に対する猶予措置(DACA)の廃止を求める」と公言したことを指摘した。
「その答えは、最も大きな打撃を受けることになる家族やコミュニティは、間違いなく私たちの兄弟姉妹たちであることを意味します」とリンコンズ氏は他の人々に語った。(「主よ、私たちにご慈悲を」)
ガルザ氏はまた、共和党が将来の選挙で不利になるような政策を実施することに対して警告を発した。
犯罪者の国外追放は議論の余地がないが、「家族を家や職場から引き離すことになる勤勉で働き者の人々について言っているのです」と彼は述べた。「反動が起こるでしょう」
共和党がヒスパニック系や黒人男性の間で、大統領選を1回乗り越えてもなお続くような深い忠誠心を得られるかどうかは、まだわからない。
現状に不満を抱き、トランプ氏を変化の源と見なす一部の有権者は、トランプ氏が候補者リストのトップにいない場合、今後の選挙では投票に行かない可能性があるとガルザ氏は述べた。
「ドナルド・トランプ氏は楽勝し、共和党の上院議員の一部は落選しました。この結果から分かるのは、多くの票が分裂したということです」とガルザ氏は述べた。「トランプ氏への支持団体や共和党への支持団体だけでは勝利は得られません。ラテン系コミュニティで活動しなければなりません。彼らの票を獲得しなければなりません」
「彼らのいる場所に行き、コミュニティの一員となり、彼らの話を聞くのです」とガルザ氏は言う。「政治家は、証拠を挙げて自分の言い分を述べなければなりません。『これが、私の考えがあなたとあなたの家族の生活を改善する理由です』」
ロドリゲス氏は、マイノリティ有権者の支持を得るにあたっては、この選挙結果がいずれの政党も現状に満足してはならないという警鐘となることを期待している。
「この流動性は、実際には新たな標準となるでしょう」と彼は言う。「アメリカ国民の一部は、もはや特定の政治体制に固執していません。そして、その中間層が、(今後は4年ごとに確認が必要な)独立した有権者層として浮上してくるでしょう」
(翻訳協力=中山信之)