歴史学ぶワークショップも人気 西南学院大学博物館が評価される理由 8月には企画展「創られたキリシタン像(イメージ)」

九州のバプテスト系キリスト教大学、西南学院大学の博物館が注目を集めている。近年、この博物館では企画展「創られたキリシタン像(イメージ)」や特別展「宣教師とキリシタン 霊性と聖像のかたちを辿って」(ともに2021年度)など興味深い展示が次々と企画され、『ユダヤ教の祝祭 ジュダイカ・コレクション』(2021年度)、『考古学からみた筑前・筑後のキリシタン 掘り出された祈り』(2022年度)などの研究叢書(図録)が出版されているが、視覚的な分かりやすさとともに学術性が担保されていると、専門家からの評価も高い。スピード感をもってこのようなアウトプットができるのはなぜなのか。そのパワーの源泉を探るべく大学のある福岡へと向かった。

取材に応じてくれたのは学芸研究員の鬼束芽依(おにつか・めい)さん。8月23日から始まる企画展「創られたキリシタン像(イメージ)――排耶書・実録・虚構系資料」を企画・担当する「中の人」だ。博物館の建物は、ウィリアム・メレル・ヴォーリズが西南学院本館・講堂として設計し、1921年に竣工した。現在、整備中のため2階の講堂は見学できないが、YouTubeで動画が公開されている。常設展は、ユダヤ教・キリスト教の歴史と日本キリスト教史、日本以外のキリスト教といったパートから構成され、聖書写本やジュダイカ(ユダヤ教の祭具等)、イコン、キリスト教禁令や開国に関する歴史資料が示されている。隣のドージャー記念室では西南学院創立者であるC・K・ドージャーをしのぶことができる。

博物館の展示や運営を担うスタッフは、アルバイトの学部生・大学院生が中心。鬼束さんをはじめ担当者は、展示に関する業務はもちろん、チラシのデザインから広報、動画制作まで行うという。夏休みや休日には展示に即したワークショップも不定期開催され、すぐに予約が埋まるほど人気だが、やはりスタッフがフルに活躍。時には講師を招くなどして、子どもたちや地域住民に楽しい学びの時間を提供している。昨年度から博物館教員として助教・学芸員の森結(もり・ゆい)氏が着任し、こうしたフレッシュさをさらに生かした企画が開催されることが期待されている。

展示図録の出版に際しては、所収する論考を外部の研究者に依頼するだけでなく、「中の人」たちも専門性を生かして執筆する。例えば、『考古学からみた筑前・筑後のキリシタン』であれば、前館長の伊藤慎二氏が「北部九州の潜伏キリシタンとその信仰復活期の墓地」を寄稿し、考古学が専門の鬼束さんは「大野城市瑞穂遺跡出土の「十字架」と「数珠玉」についての検討」を執筆している。

「歴史を自分から遠いものだと思ってほしくない。歴史を学ぶことで現代の問題、未来の課題と結びつくところがあるので、それを感じ取ってほしい」と鬼束さん。

「芝蘭堂新元会図」(複製)と鬼束さん

8月23日からの企画展では、『破提宇子』などの排耶書や、キリシタンのイメージを定着させた書物のほか、虚構系資料をも扱う。虚構系資料とは、本来キリシタン遺物ではないのに、「キリシタン遺物」であるとされた資料のこと。具体的には、観音像(偽物のマリア観音像)や仏像付き十字架、紙踏絵などであるが、明治から昭和にかけて起こったキリシタン(南蛮)ブームを追い風に製造されたことが明らかにされている。

土産物として作られた参考品が、売り買いされた挙句、本物のキリシタン遺物とされてしまったケースもあれば、もっぱら売る目的で捏造された「キリシタン遺物」もある。人々の持つキリシタンイメージが生んだ、いわば副産物といえよう。キリシタンへの関心やロマンを否定するわけではないが、そうした虚構系資料が流通することで、キリシタンの歴史が歪められてしまう恐れがある。だから、それらが本物のキリシタン遺物ではないことは広く知られるべきであろう。

しかし本展示では、虚構系資料をあげつらって無意味であると切り捨てたり、嘲笑したりすることはしないという。あくまで人々が持っていたイメージを物語る資料として展示し、虚構のキリシタン像(イメージ)がどのように形成され、変化してきたかを浮かび上がらせることを目指している。単に「偽物」とレッテルを貼るのが目的でないことは、「虚構系」という言葉を選んだところにも表れている。

虚構系資料によるキリシタンイメージの再構成という試みは、キリシタン研究において従来ほとんどなされてこなかった画期的な取り組み。軽やかに、しかし堅実に、これまでなされてこなかったことに挑戦していくパワーは、若さによるものか、それとも研究を市民に開かれたものにしていこうという情熱によるものだろうか。いずれにしても、今後も目が離せない企画が生み出されていくことを強く予感させる博物館だ。

関連イベントは、公開シンポジウム「明治以降のキリシタンイメージ――形成過程とその所産」と報告(三輪地塩、中園成生、鬼束芽依、各氏による)が予定されている。遠方で足を運べない場合は図録の出版を待ちたい。アマゾンなどインターネットで入手でき、展示解説に書ききれなかった詳しい情報や論考を読むことができる。

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