子どもへの性暴力なくしたい「ワニズアクション」始動 〝補償だけで終わらせない〟 二本樹顕理さんらが啓発

 「被害者はたった1人でさえも多すぎる」――昨年5月、実名顔出しで故・喜多川擴(ジャニー喜多川)氏による性被害を告発した二本樹顕理(あきまさ)さんが、同じ元ジャニーズJr. メンバーの飯田恭平さん、大島幸広さん、長渡康二さん、中村一也さんとともに、子どもへの性暴力をなくすための新たな一歩を踏み出した。旧ジャニーズ事務所が新会社を立ち上げ、世間の関心も薄れつつある中、この問題を被害者への補償だけで終わらせてはならないとの思いがある。

〝沈黙しない〟向き合う覚悟
「社会全体がまだグルーミングの影響下」

二本樹さんと中村さんで昨年末にスタートした「1is2many 子どもへの性暴力を根絶するActionPlan」通称「ワニズアクション」は、具体的なアクションとして子どもに対する性犯罪の時効撤廃を求める政策提言、啓発活動、専門家の協力を得たプログラムの実施、ピアサポートのようなケアを掲げている。

4月6日、都内で開催されたキックオフイベントには、男性を含め提言に共鳴する約100人の市民らが参加。5人のメンバーのほか専門家として、弁護士の上谷さくらさん、精神保健福祉士の斉藤章佳さん、臨床心理士の岡本かおりさん、助産師の櫻井裕子さんが登壇し、性犯罪をめぐる法制上の課題や加害者の更生、被害を防ぐための性教育のあり方などについて意見を交わした。

犯罪被害者支援に取り組む上谷さんは、刑法改正で前進はしているものの加害者を取り締まるだけでは限界があり、性教育を含め、子どもたちが被害に気づき、助けを求められる環境づくりが必要だと訴えた。

カウンセラーの岡本さんは、性暴力・性犯罪は理不尽で尊厳が傷つけられる「人権蹂躙(じゅうりん)」であり、結果的に自己と世界に対する基本的な信頼感が崩れてしまうものと強調。被害を打ち明けられた際に誰でもできる対応として、「話したことをねぎらう」「質問攻めにしない」「気持ちを受け止める」「罪悪感を強めるようなことを言わない」「分かったふりをしない」「放っておかない」などを挙げた。

キックオフイベントで意気込みを語る二本樹さんと「ワニズアクション」のメンバー

二本樹さんは自身の体験から、「学校での性教育は形式的になりがちな上、芸能活動をしている未成年者は授業もおろそかになりやすい。芸能事務所もそうした教育の機会を提供する必要がある」と語った。

質疑応答では、一部のファンが加害者や事務所を擁護していることへの疑問が出され、加害者臨床を行う斉藤さんは「事務所、メディア、メンバーの保護者を含め社会全体へのグルーミングが巧妙に行われてきた。今もその影響下にあるファンがいる。性暴力に対する正しい知識が広まらない限り、ネットを介した二次加害はなくならない」と分析した。

この日、会場には作曲家である故・服部良一さんの次男で、喜多川氏と親子で親交があり、約70年前の性被害を告発した俳優の服部吉次さんも参加。「アメリカの心理的植民地下にあった日本人の屈折した感覚が、日系二世であるジャニー氏からの被害を公にできなかった要因の一つではないか」と当時をふり返り、「キリスト教を半ば国教とする民主主義国家」への憧れもあり「アメリカ人が悪いことをするはずがない」というのが母の口癖だったとも紹介した。

二本樹さんはキックオフに先立ち、2月9日にも、お笑い芸人で実業家のたかまつななさんと都内で会見を開き、芸能人やクリエイターの権利保障を訴えていた=写真下。2023年11月21日から集めた7000筆近い賛同署名を総理大臣や関係省庁、各政党に提出。たかまつさんは、芸人として駆け出しのころ性暴力の現場を目の当たりにし、自身も被害にあっていたことを打ち明け、「断れば仕事がなくなる、干されるかもしれないと被害を相談できない芸能人は少なくない。芸能界で横行する搾取やハラスメントをなくすために、国が主導して芸能人の権利を守る仕組みを作ることが必要」と呼び掛けた。ジャーナリストとして元ジャニーズJr.のメンバーを含む被害者に取材し、悲痛な声を聞く中で、再発防止策を考えなければと駆り立てられたという。会見では、2022年に芸能人の地位と権利を保障する法律が施行され、性被害などのトラブルを相談できる専用窓口が設置された韓国の事例も紹介された。

この会見に同席したジャーナリストの松谷創一郎さん(右端)は、2016年、SMAPの解散騒動と〝公開処刑〟に違和感を抱いて以来、ジャニーズ事務所が長年にわたりメディアや他事務所に圧力をかけてきた事実を問題視してきた。

キリスト教と関わりの深い家系で育ち、自身とプロテスタントの関係についてずっと考えてきたという松谷さんは、本紙の取材に応じ「カトリック教会の司祭による性加害も、イギリスBBCテレビの人気司会者であるジミー・サビル氏による問題も知っていながら、ジャニーズ事務所のアキレス腱を率先して切りにいけなかったことについては忸怩たる思い。証拠も証言も限られていた中で、どこまで追及できたか分からないが、少なくともジャニー喜多川氏が存命中であれば、今よりも広がりがあった可能性はある」と吐露。カウアン・オカモトさんに続き二本樹さんらが声を上げるまで、性加害の実態を追究し切れなかったことを悔やみつつ、再発防止のための明確なルール策定の必要性を訴えた。

*全文は5月1日付本紙に掲載。電子版(PDF)は以下のnoteでも購読可能。

https://note.com/macchan1109/m/mc01613d1fac9

実名告発で示された道 元ジャニーズJr. 二本樹顕理さんインタビュー 父との確執 性被害、依存症、うつからの立ち直り 2023年6月11日

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