2017年、マンチェスターの聖霊降臨日  與賀田光嗣 【宗教リテラシー向上委員会】

今年の聖霊降臨日(ペンテコステ)は5月28日である。イエスの昇天の10日後、弟子たちに聖霊が降り、彼らが活動を始めたこと、いわば教会の誕生日を記念する日でもある。イースター、クリスマスに並ぶ教会の三大祝日であるが、その認知度は若干低いかもしれない。それは私が住んでいた英国でもそうだった。だが2017年の聖霊降臨日は、多くの人にとってその日の意味を刷新する日となった。

その年の昇天日の3日前、マンチェスターでアリアナ・グランデのコンサートが開かれた。コンサート終了後の人の波を狙った自爆テロが起き、実行犯含む23人が死亡、59人が重軽傷を負った。昇天日の礼拝では、多くの人が天を仰いで祈りをささげた。その数日後、ロンドンではイスラム過激派によるテロが起き、8人が死亡、48人が重軽傷を負った。イギリスに住む約300万人のイスラム教徒は、どれだけ胸を痛めたことだろうか。

このロンドンのテロの翌日、6月4日の聖霊降臨日、アリアナは再びマンチェスターに戻り、慈善コンサートを開いた。その収益はテロ被害者の家族へと寄付された。”One Love Manchester”と題されたこのコンサートには、多くのアーティストらが参加し、BBCで生中継が行われた。コンサートが始まる前、アリアナはマンチェスター主教と数分の沈黙の祈りの時を持った。

このコンサートに参加したケイティ・ペリーのスピーチはとても印象的だった。彼女は次のように言う。

「常に愛を選ぶことは簡単なことじゃない。特に、このような困難な時は。でも、愛は恐れに打ち勝つし、愛は憎悪に打ち勝つんです。あなたの隣の人に今、その手で触れてください。人間のコンタクトを取ってください。隣の人の目を見て、愛を伝えて、I love youと言ってください」

そして会場は、自分の隣人に愛を伝える声、まなざし、ぬくもりで包まれた。

また会場では、あらゆる差別と戦った人物、イスラム教徒の故モハメド・アリのメッセージ「神は私たちがどのように助け合うかを求められている」が響き渡った。

最後に、アリアナは「オーバー・ザ・レインボー(虹の彼方に)」を歌った。『オズの魔法使い』で有名なこの歌が世に出た1939年は、第二次世界大戦の始まりの年である。大戦中や戦後の復興において、多くの人の励ましと慰めの歌でもあった。理想の世界、善きものとは虹の彼方にではなく、「自分のまわりにある」ということが劇中で再発見される。テロなき世界、暴力なき世界を実現するのは、誰かを隣り人として愛することから始まること。隣り人として愛し愛されることから始まること。そのようなメッセージが込められたコンサートだった。このコンサートが聖霊降臨日に行われたのは実に示唆的である。

聖霊降臨日の日、弟子たちは多くの人々に、その人々の言葉で語りかけた。自分だけが分かる言葉ではなく、さまざまな人たちの言葉で、一人ひとりに語りかけ、愛を伝えようとした。自分だけの言葉、自分だけの世界ではなく、さまざまな言葉、さまざまな文化を自分の隣り人とする。

「彼らが私たちの言葉で神の偉大な業を語っているのを聞こうとは」(使徒言行録2章11節)

弟子たちのありように人々が驚いたのは、自分たちを大切にしようとしたからである。神の偉大な業とは、すなわち、隣り人を愛するということに他ならない。6年前の聖霊降臨日は、確かに神の偉大な業を今も伝え続けているのだ。

 

與賀田光嗣(神戸国際大学付属高等学校チャプレン)
よかた・こうし 1980年北海道生まれ。関西学院大学神学部、ウイリアムス神学館卒業。2010年司祭按手。神戸聖ミカエル教会、高知聖パウロ教会、立教英国学院チャプレンを経て現職。妻と1男1女の4人家族。

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