映画『対峙』(配給:トランスフォーマー、2月10日公開)は、「被害者と加害者の対話」という極めて重くセンシティブなテーマを、圧巻の会話劇で描き切る衝撃作。釜山国際映画祭フラッシュフォワード部門観客賞をはじめ43映画賞を受賞し、日本でも公開当初から数々の賞賛の声が寄せられている。不寛容やリアルな⼈間関係の希薄さが問題視される現在において、「赦す」とは何かを改めて観客に問いかける。
アメリカの高校で、生徒による銃乱射事件が勃発。多くの同級生が殺され、犯人の少年も校内で自ら命を絶った。それから6年、いまだ息子の死を受け入れられないペリー夫妻は、加害者の両親と会って話をするという驚くべき行動に出る。場所は、教会の奥の小さな個室。「お元気ですか?」と、古い知り合い同士のような挨拶をぎこちなく交わす4人。そして遂に、ペリー夫人の「息子さんについて何もかも話してください」という言葉を合図に、誰も結末が予測できない対話が幕を開ける――。
アメリカ西部の田舎町にある小さな教会を舞台に、ほぼ全編、密室4⼈の会話だけで進⾏する。事件を彷彿とさせる生々しい映像や回想シーンは一切なく、加害少年や被害者の顔も出てこない。にも関わらず、どんなスリラーにも勝る緊迫感に満ち、圧倒されるのは、入念なリサーチによって編み上げられた台詞によるところが大きい。脚本を担当したフラン・クランツ監督は、実際に起きた学校内銃撃事件を深く掘り下げ、様々な報告書を読むうちに、銃撃犯の両親と犠牲者の両親との会談に関する記述に出会った。同作でのリアルな臨場感は緻密で⼊念なリサーチの賜物だ。
4人の会話は、それぞれの息⼦の成⻑から過ごしてきた⻘春の⽇々、家族との関係、さらには銃乱射事件へと進んでいく。洗いざらいに話しているつもりの加害者家族と、全ての話に納得がいかない被害者家族。被害者家族の悲しみに謝罪する加害者家族だが、実は愛する子どもを失ったという点では両家族とも同じだ。加害者側の父親にはその思いが隠しきれないように感じだが、母親リンダはあくまで加害者として謝罪することに徹していた。対話は、被害者の母親ゲイルが「あなたたちを赦す」と伝えて終了するのだが、それは赦しというよりも諦めに思える。それが真実となるのは、帰る間際にリンダが対話の中で明かせなかった告白とした時だ。
「赦し」は決して簡単ではない。言葉にできたとしても、傷ついた心は元通りにはならないのだ。しかし、神さまは、人間に「共感する心」を与えてくださった。ゲイルは、リンダが抱える後悔や苦悩に共感できたから、苦しみを抱える同じ母親としてリンダを受け入れることができたのではないだろうか。ラストの思いがけない展開は、被害者と加害者の関係は変わることはないが、人間同士ならば心を分かち合うことができるという希望を与えてくれる。
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