対面による「イフタール」の効用 小村明子 【宗教リテラシー向上委員会】

2022年のラマダーンは、4月2日から始まった。この2年間、ラマダーン月の行事は人を集めて大規模に行うことができなかった。日中の断食が終わって最初にとる食事である「イフタール」にしても家族のみ、あるいは友人・知人宅など小規模で集まって行っていた。今年はどうかといえば、予約制にして参加人数を把握するなどの感染症対策をとりながら、通常の「イフタール」が行われている。

筆者が今年の「イフタール」に参加して改めて感じたことがある。それは、人間関係は対面の方が円滑に構築できるということである。例年の「イフタール」で見る光景として、積極的に話しかけてくれるムスリムが多いこともあってか、さまざまなムスリムと出会うことができる。初めて知り合い、そのまま意気投合して仲良くなっていく光景もまた目にすることができる。週に1度行われている勉強会などでも友人を作ることはできる。だが、「イフタール」のような時期が限定される宗教行事の場においては、この時に初めて出会うムスリムも多く、断食という共通の目標を達成し、その日の断食が明けて初めてとる食事に舌鼓を打ちながら、ムスリム同士の新たな交友関係を築くことができる。

筆者自身の体験ではあるが、今回参加した「イフタール」において、若い日本人女性ムスリムから積極的に話しかけられ、いろいろと教わることがあった。改宗してそれほど年も経っていない若いムスリムは、SNSで知り合うケースが多い。だが、「イフタール」のような場があるからこそ、それまでつながることのない、あるいはSNS上でつながる機会のないムスリムと、対面で初めて出会うことが多く、こうしたムスリムはさまざまな年代であり、かつさまざまな経験を持っており、彼女らからさまざまな意見や考えを聞く機会を得られる。筆者自身も初めて出会ったムスリムからさまざまな話を聞く中で、イスラーム世界においてもSNSの影響が強いことを改めて知り、だがその一方で、直接対面で話をすることの重要性を深く認識した。

今年の「イフタール」で筆者が食べた食事

もう一つ、2年ぶりの「イフタール」について書きたいことがある。筆者が「イフタール」の場において2年ぶりに懇意にしているムスリムたちに出会った時には、まるで同窓会に参加しているかのような気分になった。もちろん、この2年間個人的に会っていたムスリムもいるが、ラマダーンという特別な時期に久々に出会うことは何か通常の時に久々に出会った時の感覚とは違って、感慨もひとしおである。

この感覚は筆者だけではないだろう。「イフタール」の時に久々に会ったある日本人ムスリムが、「やっぱり直接会わないと『イフタール』じゃないよね」と述べていたからである。旧知の仲で、たとえオンラインで会っていようが、直接対面の方が表情を容易に読み取れることもあってお互いに話す内容が理解しやすく話に花が咲くのである。

2年という月日は決して短い時間ではない。その間にもムスリムの子どもたちが生まれ、また新たな改宗者も出ている。コロナ禍の2年間はムスリム社会にも変化を生じさせたが、それと同時に、人と直接出会い、対面で話をすることの大切さを改めて実感させることになったと言える。

 

小村明子(立教大学講師、奈良教育大学国際交流留学センター特任講師)
 こむら・あきこ 東京都生まれ。日本のイスラームおよびムスリムを20年以上にわたり研究。現在は、地域振興と異文化理解についてフィールドワークを行っている。博士(地域研究)。著書に、『日本とイスラームが出会うとき――その歴史と可能性』(現代書館)、『日本のイスラーム』(朝日新聞出版)がある。

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