女性をめぐるイスラームの法解釈(2) 小村明子 【宗教リテラシー向上委員会】

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前回、ムスリム女性の自由や権利について触れた。そこで思い出したことがある。それは、講演会や研究会におけるムスリム女性についての聴衆からの質問や意見である。筆者の経験談として以下記すが、これまで市民参加型の講演会や研究会などで、「六信五行」などのイスラームの信仰の基軸やその概念を話すことがたびたびあった。その中で、ムスリム女性の自由や権利についてもまた、スカーフ着用や服装などの具体例を挙げて話をする機会があった。ムスリム女性の話をする時は、コーランや預言者ムハンマドの言行録であるハディースで女性についてどのように記されているのかも説明している。これまで、女性はイスラームの規定でその立場のみならず、彼女らの自由や権利も守られていることを説明していたが、聴衆からはイスラーム世界の女性のあり方、特にスカーフ着用について質問が何度も出た。中には「いくらわかりやすく説明したとしても、それでもイスラームは女性蔑視の宗教である」という発言もあった。

【宗教リテラシー向上委員会】 女性をめぐるイスラームの法解釈 小村明子 2021年10月1日

イスラーム世界での女性について一般的に言われることは、ムスリム女性は男性よりも社会的に地位が低く、虐げられた存在だということである。本当にそうであろうか。コーランには「婦人章」という章がある。同章では結婚についての規定や財産分与が記されている。もちろん、これらの記載では、結婚相手となる女性にまずは婚資を渡すことや、女性を複数めとるのであれば、婚姻関係にある女性全員を平等に扱うこと、それができなければ1人の配偶者に留めておくこと、女性にも均等に財産が分けられること、などが記されている。財産においては、どのように分けるのかも細かく記されてもいる。またコーランのその他の章でも、妻である女性が夫に虐待されることがないように、助けを求めて逃げてきたムスリム女性は必ず守るように、とも記されている。

ハディースにも同様に、女性に対して思いやること、困っている女性がいた時にはその女性が見知らぬ人であっても助けること、などが記されている。これだけ女性に対する記述があるのは、イスラーム以前の時代の女性像を投影していると推測できる。すなわち、その当時の女性は社会的立場が低く、かつ不平等に扱われ、虐げられていた存在であったこと、イスラームが女性について宗教教義としてさまざまに言及することで、当時の女性の置かれた状況を刷新することができたのだと考えることができる。

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冒頭の講演会や研究会の話に戻るが、聴衆の中からイスラームが女性蔑視の宗教であるという意見が出る背景には、イスラームが成立した当時の状況を考慮していないことや、現代の価値観、それも日本社会という歴史的にイスラームとは縁遠かった社会で育まれた価値観によって、イスラーム世界の女性を見ていることがあるのだろう。さらにその上、ニュース報道などによるイスラームについてのネガティブなイメージが、聴衆のイスラームに関する知識となっていることもまた指摘できるだろう。

イスラームでは、男性女性関係なく、人は皆それぞれが公正であり、貧しい者や助けを求めてきた者には優しく受け入れ、また施しをすることを求めている。同じ人間として同じ共同体に生きていくのであるから、もめごとを起こすことなく、互いに協力することを求めているのである。

小村明子(立教大学講師、奈良教育大学国際交流留学センター特任講師)
 こむら・あきこ 東京都生まれ。日本のイスラームおよびムスリムを20年以上にわたり研究。現在は、地域振興と異文化理解についてフィールドワークを行っている。博士(地域研究)。著書に、『日本とイスラームが出会うとき――その歴史と可能性』(現代書館)、『日本のイスラーム』(朝日新聞出版)がある。

【宗教リテラシー向上委員会】 オリンピックがムスリム社会にもたらす影響 小村明子 2021年7月21日

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