高校生世代への伝道と信仰訓練とに取り組んできた高校生聖書伝道協会(hi-b.a:ハイ・ビー・エー)。本書は、その代表スタッフ・川口竜太郎(かわぐち・りゅうたろう)さんが教会学校教案誌「成長」に執筆していた同名の連載に加筆・修正を加えてまとめたもので、中高生伝道への熱い思いが詰まった一冊だ。
川口さんは、湘南生まれの湘南育ち。 東洋美術学校 絵画科卒業、絵画研究科中退後、渡英し、OMの世界宣教船Doulos(ドゥロス)号に乗る。 約2年3カ月ほどの船上宣教生活を終え帰国後、活水聖書学院に入学。その後学びを終え、hi-b.a.のスタッフとなり、現在に至る。活水の群れキリスト伝道隊国内宣教師。
本書は、「信仰継承は急務だから慎重に」「彼らの見ている景色~中高生の現状~」「中高生とSNS」「信仰の伝え方、中高生との接し方」「教会は地域の救いの拠点」の5章で構成され、教会から中高生の姿が減りつつある中、どのように信仰を継承していけばいいのか、中高生の現状を伝えながら、情報や課題を提供する。ただし、中高生を集めるための手法やノウハウが紹介されているわけではない。川口さんは、中高生の伝道はテクニックではないと強調する。
「高校生はキリストを必要としている」と確信する川口さん。中高生と関わる時に大切なこととして、「多くの中高生が集まるのはゴールではなく、スタートであるという認識を持つこと」と、「集めることよりも育てることに重点をおくこと」の2つを挙げる。実際、教会に中高生が訪れたとしても、その後教会になかなかつながらない厳しい現状がある。教会の目的は、中高生が神と共に生きられるようにすることであり、中高生を集めることはあくまでも手段であることを改めて気づかされる。
どの年代層でも共通したことだが、中高生伝道で特に大切なのは、御言葉を分かる言葉で伝えることだ。また、いくら意味が分かっても、自分の人生にインパクトを与えることに気づかなければ、聖書の言葉は心に響かない。川口さんは、神の愛や励ましのメッセージは大切だが、それだけではなく、将来も御言葉に歩み続けることを伝える必要があると説く。そうするためには、信頼関係を構築し、彼らが直面している課題や事柄を把握することが大切で、そのためには時間をかけて根気よく彼らと付きあっていく覚悟が必要となってくるだろう。
それは、クリスチャンホームで育った子どもたちも例外ではない。幼い頃から聖書に慣れ親しんでいるので、聖書の知識は豊富だが、信仰に歩んだ経験がないためペーパードライバーのような状況で、信仰の魅力を感じずにいる。次第に、福音の恵みが重荷にとなり、教会から離れていってしまうのだ。川口さんは、「幼い頃から教会で育ってきた彼らには、今まで聞いてきた福音の力を、彼らの分かる言葉で根気よく伝えていくならば、福音を再確認し、信仰を再燃させることができる」と、信仰を再び取り戻すことを決して諦めない。
「目の前にいる中高生に信仰を伝えられるのは、その世代に生きる私たちだけなのです」(6ページ)という言葉は、中高生伝道に取り組む人たちを励ます。しかし、中高生世代への信仰の継承は、牧師や教師、伝道団体のスタッフだけで担いきれるものでない。川口さんは、「これをあなたの子どもたちによく教え込みなさい」(申命記6:7、新改訳)を引用し、信仰継承は神ご自身の願いでもあることを明らかにする。中高生への信仰継承が、神様の願いであるならば、日本のクリスチャン全体で共通認識をもち、取り組む必要があるのではないだろうか。
自分たちの子ども時代とは違う環境の中で生き、価値観も変わってきている現代を生きる中高生。そんな彼らに、かつての中高生たちは、戸惑うことばかりだ。そんな不安な思いを本書では次の言葉で希望に変える。
「私たち人間は、困難を主と共に乗り越えていくときに、信仰が成長するのではないでしょうか」(36ページ)
川口竜太郎著『中高生に信仰を伝えるために』
2020年5月20日初版発行
いのちのことば社
1000円(税別)
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