架空の街「落ち葉シティ」を舞台にした連作短編集『落ち葉シティ2』が4月に文芸社から刊行された。正直だが不器用な人たちが織りなす恋模様を通して、人を思う気持ちを優しくユーモラスに、時には切なく描き出す。
5年前に刊行された『落ち葉シティ』(文芸社)の続編。「セーターに愛を込めて」「十六夜(いざよい)」「計算できない女」「ロマンスアレルギー」「昏(くら)い渚」「待合室」「高齢者は幸麗者(こうれいしゃ)」「時の贈り物」の8編が収められている。
著者の下田ひとみさんは鳥取市出身。30代後半から本格的に小説を書き始め、『うりずんの風』(作品社)でデビュー。『トロアスの港』、『翼を持つ者』(同)など、信仰の葛藤や魂の救済を描いてきた。本紙でも「月の都」や「思い出の杉谷牧師」を連載している。単立・逗子キリスト教会会員。
下田さんに最新作について話を聞いた。
──『落ち葉シティ』誕生の経緯を教えてください。
「こんなことが起こったら嬉しいなあ」、「こんな人がいたらいいなあ」という素朴な思いをベースに書き始めました。教会もクリスチャンも登場しませんが、落ち葉の美しいこの街に満ち満ちているのは神様の愛です。神様の作品である人間の愛おしさや憧れや夢を描いています。
──信仰がテーマである「うりずんの風」などの作品と比べると、趣が違うように感じます。
それは描き方が違うだけで、根底にあるものは同じです。作品には作家の人間性が現れます。神様が私に与えてくださった信仰が作品に出ないわけがなく、この物語も、神様が書かせてくださっているという気持ちでいます。ただ『落ち葉シティ』では、あえてクリスチャンや教会ということは出していません。そういったことがない世界で人間同士の愛などを描いてみたいという思いもありますから。
──前作の舞台となったカナリィ館(やかた)の住人があまり出てこないので、少し寂しく思いました。
「落ち葉シティ2」としましたが、「1」とはまた独立したかたちになっています。今回は、女の人のきれいな心根が感じられ、読後感のよい作品を中心に収録しました。今後、「3」「4」とステップアップしていきたいので、「1」で謎(なぞ)のままになっていることも、これから楽しみながら書いていこうと思っています。
──シリーズとして、長いスタンスで書いていかれるのですね。
神様が許してくださるなら、パート3、4、5と、ライフワークとして、この街に住んでいる人の物語を書き続けていきたいですね。
クリスチャンや教会が出てこない物語でも、ある人はそこに神様の愛を感じ取って、私のほかの作品も読み、教会に行かれたと聞いています。それはすごく嬉しいことです。神様が創(つく)られた私たちの世界を描くことは意味があることかなと。もちろん、『うりずんの風』のような純文学も書きたいという気持ちはありますが、導かれるままに書いていければと思っています。
──『落ち葉シティ2』で下田さんが気に入っている物語を教えてください。
どれも、まわりの人から聞いて面白かった、実際にあった話を基に、私自身楽しみながら書いたので、どれか一つを選ぶことはできませんが、5つ目の「昏い渚」は男性に人気があります。「男性の切々とした気持ちが表れていて光があった」と。女性もこの話が好きな人が多いです。
──還暦を迎える男性が自らの心に向き合うところは切ないですが、そのままで終わらないところがいいですね。最後に読者にひとことお願いします。
この本の出版にあたっては多くの人に応援していただきました。地元の書店でも、鎌倉在住の作家ということで、『落ち葉シティ』のコーナーを作ってくれました。そのおかげもあって、週の売り上げ第1位を獲得し、本当にありがたいなと思っています。泣いたり笑ったり、ため息をついたり、ときめいたり、時に不思議なことが起こったり、時空を超えた人物が登場したりします。風に舞う落ち葉のように、さまざまな色の物語が飛び交う落ち葉シティワールド。お楽しみくだい。
下田ひとみ『落ち葉シティ2』
2020年4月15日初版発行
文芸社
600円(税別)
※下田ひとみ『落ち葉シティ2』をプレゼントします。応募締め切りは6月30日(火)まで。応募は、ご住所とお名前を明記の上、ホームページのいちばん下にある「お問い合わせ」からメールをお送りください。当選者発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます。当選に関するお問い合わせにはお答えすることができません。