「もはや昭和ではない」時代の宗教論 丹羽宣子 【宗教リテラシー向上委員会】

私たちが常識として受容している観念も、実態とかけ離れているということは少なくない。その一つが「家族」や「家」である。

伝統的家族といえば3世代同居がイメージされるし、夫婦と子どもからなる核家族は高度経済成長期に急拡大したといわれる。しかし、本当にそうだろうか。

社会学者・戸田貞三(1887~1955年)は『家族構成』(1937年)において、当時の家族の姿を数量的に把握することを試みた。用いたのは1920(大正9)年に実施された第1回国勢調査の抽出票である。これにより夫婦家族(夫婦と未婚の子からなる世帯)は59.8%に達し、3世代家族は26.5%にすぎないことが見出された。家制度のもとに直系家族や家父長的家族が優勢といわれていた時代であっても、いわゆる核家族世帯が多数派だったのだ。

高度経済成長期とそれ以降の変化も見てみよう。核家族世帯比率は1955年から1975年にかけて59.6%から63.9%に伸びている。とはいえ4.3%の上昇である。一般にいわれるほどの伸び幅とはいい難い。3世代同居世帯はどうだろうか。比率で見れば確かに核家族世帯に押されているが、実は1955年から2000年まで3世代世帯の実数はほぼ横ばいであった(落合恵美子『21世紀家族へ[第4版]』有斐閣、2019年、77~78頁)。土地やお墓を守るため親と同居していた長男夫婦は20世紀末までその数を減らしていなかった。しかし、2000年以降は減少傾向が続いている。昨今の檀家離れや墓じまいの増加はこの流れと無関係ではない。

さて、近年急増しているのは「単独世帯」である。2020年国勢調査では38.1%と最も多く、「夫婦と子供から成る世帯」25.1%、「夫婦のみの世帯」20.1%と続く。50歳時未婚率は男性28.3%、女性17.8%、合計特殊出生率は1.33。皆が結婚し、子どもをもうけ、家族で暮らすということはもはや当たり前とはいえない。

今年6月に公開された『男女共同参画白書』は、「もはや昭和ではない」というバズワードでも話題となった。人生も家族も様変わりしている一方で、社会の仕組みは昭和モデルを引きずっている。白書は種々の衝撃的なデータを示しながら、日本社会に変化と多様性に即した変革を訴える。

このような時代に宗教は家族をどう捉えていけるだろう。多くの宗教はその存立基盤として家族を重視する。仏教であれば檀家の「家」の字が象徴するように寺と家族の関係が前提であるし、そもそも日本のお寺は住職家族によって世襲継承されている。神道でも共同体や子孫の繁栄が願われ、よい親、よい子、よい夫婦であることが説かれる。少なくない新宗教は家庭を信仰実践の場としてきた。数多の宗教は幸せな家庭を築くことの意義を説いてきたが、それは実際には達成しにくい家族像だからこそ、目指すべき理想として示され続けてきたのかもしれない。

しかし、家族を自明視することはもはや困難な時代を私たちは生きている。まして家族をセーフティーネットにすることの危うさ、家族それ自体がリスクになり得ることが広く議論されるのが今日的状況である。この状況を家族の解体として否定的に捉えるのは簡単だ。宗教は市場経済や競争主義からの避難所となり、世俗社会とは異なる世界観を提示することもできる。しかし宗教も社会の内にあるものである以上、組織運営のあり方や、人々がリアルに感じ実践できる救いのメッセージの変化とも無縁ではいられない。生き方の多様化がもたらす社会の変化を見据えた新たな宗教論が求められるのではいだろうか。

 

丹羽宣子(一橋大学非常勤講師・特別研究員)
にわ・のぶこ 1983年福島県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。國學院大學日本文化研究所共同研究員。著書に『<僧侶らしさ>と<女性らしさ>の宗教社会学――日蓮宗女性僧侶の事例から』(晃洋書房)。

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