【となりの異教徒 妻は寺娘】 「私、洗礼受けないので」 Ministry 2019年春・第41号

イラスト=肉村知夏

 お寺の娘と神学生がキリスト教系大学で出会い、結婚して子育てに奮闘する――そんなありそうでなさそうな凸凹夫婦の日常から、「共生」を実践する上でのヒントを探る。

「私、洗礼受けないので」

洗礼についての話をするとき、妻・明香の第一声はいつも決まってこうだ。某医療ドラマの主人公ばりにハッキリと言い切ってくれる。 はじめに説明しておくと、私の妻は曹洞宗のお寺の出身である。お寺に生まれた女性のことを「寺娘」と呼ぶらしく、何となく可愛らしいネーミングなので私も彼女のことを紹介するときはそのように呼ぶようにしている。私の妻は、正真正銘「寺娘」である。

それを聞くと皆さんは、「それなら仕方がない」と、彼女が受洗を拒否していることに納得されるかもしれない。しかし、「私、洗礼受けないので」と彼女が言うのは、決してお寺で生まれ育ったからとか、家族の手前、宗教を変えることがはばかられるからという理由ではない。また、単純にキリスト教に興味がないとか、キリスト教という宗教が怖いというわけでもない。特に後者に関して言うならば、むしろ彼女は、日本に住む「ノンクリ」(「ノンクリスチャン」の略。キリスト教の信者ではない人)の中でも、学者や専門家を除けば、かなりキリスト教のことを知っている稀有な存在である。

私、失敗しないので

彼女は、兵庫県にあるキリスト教主義大学の神学部で4年間を過ごし、当時そこで神学生として学んでいた私(現在は日本基督教団の教務教師)と出会って結婚した。その後、ほぼ毎週教会に通い、聖書通読を果たし(これがスゴい!)、そして今や、ノンクリでありながら、牧師やカトリック・聖公会の司祭のためのいわゆる「カラーシャツ」の製作及びネット販売まで手がけているのである。これほどまでにキリスト教に深く関わっている非信者が他にいるだろうか。

それでも、私の妻は受洗について問われたとき、「私、洗礼受けないので」と即答する。なぜなのか。その理由はここでは明かさない。本誌の読者の皆さんなら、この連載を通じて、きっとお察しいただけるはずだ。

さまざまな問題を抱える現代の日本のキリスト教界に鋭くメスを入れ……られるかどうかはわからないが、我々、ノンクリの寺娘とキリスト教教師の資格を持つ男による一風変わった夫婦生活の様子をお楽しみいただければ幸いである。なお、本連載は、2人の間で交わされた会話の内容を編集し、読みやすく整えた「対話形式」の体裁をとっているが、リアルさを残すために方言である「関西弁」はそのままにしている。関西弁に抵抗がある読者の方もいらっしゃるかもしれないが、どうか堪忍したってほしい。

柳川 真太朗
 やながわ・しんたろう 1989年、ノンクリスチャンの家庭に生まれる。2007年4月8日受洗。2014年3月、関西学院大学大学院神学研究科前期博士課程修了。同年4月、日本基督教団 名古屋中央教会担任教師。2017年4月より、名古屋学院大学 キリスト教センター 職員(日本基督教団教務教師)。

柳川 明香
 やながわ・はるか 1990年、曹洞宗の寺の長女として生まれる。2013年3月、関西学院大学神学部卒業。結婚後、夫・真太朗と共に名古屋へ。牧師・司祭用カラーシャツ工房『HARCA』経営。

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