江戸時代初期、キリシタン弾圧が激しさを増すきっかけともなった「島原の乱」を指揮し、16歳の若さでこの世を去った悲劇のヒーロー・天草四郎が、もし美声(イケボ)で現代に蘇ったら――そんな奇跡を実現させる体験型の観光アトラクションが話題を呼んでいる。
舞台は長崎県島原市の名所、島原城。最新のMR(Mixed Reality=複合現実)技術を駆使し、歴史上の人物をホログラムとして眼前に登場させ、常設展示を音声ガイドと共に案内するという30分の体験プログラム。その第1弾として2021年春からスタートしたのが、「Son of God 天草四郎――島原城に舞い降りた奇跡」だ。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の渚カヲル役でおなじみの声優・石田彰さん演じる天草四郎が、キリスト教の伝来から「島原の乱」に至るまでの歴史と共に、数々の展示品を紹介してくれる。終盤のクライマックスには、幕府軍との戦闘に巻き込まれるという演出も。同様の技術を城郭の常設展として採用した国内の事例は極めて稀。
開発したのは島原市から指定管理を受け、島原城の施設管理と運営を請け負う株式会社島原観光ビューロー。これまで天守閣の展示は、いずれも開館当時から変わらず古いものばかりだったが、2019年、北海道の新千歳空港に実物大の恐竜をホログラムで登場させるというJTBの誘致企画に着想を得て、先端テクノロジーを取り入れたいと構想を練り始めた。当初のイメージは、SF大作『スター・ウォーズ』で助けを求めるレイア姫が3Dの映像として映し出されるシーン。
専門業者に発注したところ、出来上がった天草四郎のビジュアルが想像を上回るクオリティだったため、急きょプロの声優にアフレコを依頼することとなった。『鬼滅の刃』竈門炭治郎役の花江夏樹さん、『進撃の巨人』エレン・イェーガー役の梶裕貴さんも候補に挙がったが、かつてオリジナル朗読CDシリーズ「The Time Walkers」で天草を演じた経験もあるとの情報から石田さんに決定。魅惑的な声で命を吹き込まれた新しい天草四郎が、時空を超えて「舞い降りた」。
リリース直後の緊急事態宣言で一時閉館したものの、現在は客足も戻り始めている。最近ではTwitterなどのSNS、ホームページなど、インターネットからの情報を機に訪れた体験者が8割以上。人気声優の起用で、これまで城には縁のなかったアニメファンなども遠方から訪れるようになり、なかには繰り返し体験するリピーターも。さっそく「別バージョンもあれば体験したい」との要望も寄せられているという。世代別割合では20代が34%と最多。男女比では女性が7割を超え、他の城郭とはかなり様相が異なる。
「天草四郎が、迫害された立場から説明する設定なので、どうしてもキリスト教寄りの解説になってしまう」と島原観光ビューローの担当者。一方で、韓国から来るクリスチャンの観光客も少なくないため、熱心な信徒の方から質問を受けた際に応答できるよう心がけているという。
来年には、同じ技術を活用し、より高齢層向けにアカデミックなコンテンツを公開予定。今後も、文化・芸術・歴史の継承、観光資源の開発、キリシタン史を含む学術研究など、さまざまな局面での可能性が広がることを期待したい。
【島原城天守閣】
〒855-0036 長崎県島原市城内1丁目1183-1
【イベント情報】
■Son of God 天草四郎 ~島原城に舞い降りた奇跡~
株式会社MuuMuとタッグを組み国内初の城郭内MR常設展示を実施。Microsoft Hololens2を使用することで、リッチなMRホログラム体験と、ハンドトラッキングを活用した「触る」歴史を最大4人同時に体験できる。普段さわることのできない展示物(踏み絵)などを、ホログラム化して手に取り、さまざまな角度で自由に見ることができる。時間:午前9時~午後5時(最終受付4時半)、販売場所:島原城天守閣券売所、体験時間:約30分、体験料:2,200円(税込、しまばらめぐりんチケット割引あり、別途入場料:大人550円/中・高校生280円)、年齢制限:中学生以上(小学生以下の方は体験できません)。
■島原城 夜の陣
普段は入ることのできない夜の島原城天守閣へ潜入。昼間とは違う雰囲気の薄暗い館内を、懐中電灯で照らしながら進んでいく。各階ごとに変化するテーマカラーとオリジナルのBGM。最上階では夜空に浮かぶ幻想的な影絵「キャッスルモンスター」や島原の夜景も楽しめる。期間:2022年3月27日(日)まで。開館時間:土曜日・日曜日・祝日の午後6時半~9時半(最終入館9時)、参加料金:大人1,000円/小・中・高生600円(税込)/未就学児無料(安全確保のため大人の方1名以上ご同伴ください)、駐車場:午後6時~10時に限り無料。
■島原ウインターナイトファンタジア
島原の冬の風物詩で昨年よりメイン会場が島原中央公園となり、商店街から島原市役までをライトアップ。色とりどりのイルミネーションや光のオブジェが街中を彩る。期間:2021年12月4日~2022年1月8日、時間:午後5時半~10時点灯。
■天守閣「刀剣展」
島原七万石藩主として長年幕末まで続いた松平家に伝わる宝刀で、現在は長崎県指定有形文化財の「神気」と「神息」を毎年1回、期間限定でお披露目している。期間:2022年1月9日(日)~1月23日(日)予定。