香港にとって2021年は「解散」づくしの1年だった。わずかこの11カ月だけでも新聞の停刊、デモを呼びかけてきた民主派団体のネットワーク、植民地時代から中国語による教育活動に道を開いた教職員組合、雄弁に政府に声を上げてきた教会、そして大学の学生自治会、さらに海外につながる人権NGOなども解散に追い込まれた。映画も自由に上映できなくなり、出版物も入手しにくくなった。
先日も中文大学のカトリック学生会が学生自治会の解散を受けて、大学当局から法的地位の再確認を求められ、学生課所属団体になるか、単独で社団として登記する(審査は警察)か、解散かをめぐって臨時総会を開き、夜遅くまで話し合った。幸い学生課所属となり生き残りを模索することになったが、そんな状況も相まって執行部になる学生が足りないという。影響はじわじわと、そして確実に出てきている。
また多くの友人・知人が海外に移民をした。特に子育て世代の移民が目立つ。学校では学生も教員も移民で抜け、政府のカリキュラム変更に振り回され、現場は混乱しているという。また医師の移民も増え、医師不足が深刻さを増し、コロナ禍の状況が追い打ちをかけている。異郷の空の下、今までふらりと会うことができた友人たちはどのようなクリスマスを迎えているのであろうか。
そして、海外に逃れた人がいる一方、香港で拘束され監獄につながれた人もいる。様子を気にかけながらも、外国籍の私から手紙などを送ることもためらってしまう。知り合いのソーシャルワーカーが刑務所の受刑者に対し、失敗経験の多い彼らが自信を持ち、前向きに生きていけるようカウンセリングを行っている。しかし、新たに収監されるのはむしろ責任ある地位にいた人で、刑務所内でも前向きで他の受刑者へも非常に思いやりのある行動を貫いている人が多いという。彼らと話すたびにかえって自分の力不足を感じてしまうと話していた。
毎年、アドベント(待降節)に入ると、香港の高いビルの壁面はクリスマスのイルミネーションで飾られる。雨傘運動(2014年)の強制排除が迫った12月初旬と比べ、今年は電飾も少ない。立法会選挙前の寒空を見上げながら、異郷に逃れた友人たちを思う。思えばキリストもお生まれになってしばらくは逃避行の日々だった。返還後、多くの人々の思いをつなぎ、くみ上げてきた組織や居場所が姿を消してしまったが、思い出にしがみつくことなく、また新たな場面と出会いの中に神の国を思い描きたい。そして、今は会えない友の笑顔を胸に。皆さんも良いクリスマスをお迎えください。
こいで・まさお 香港中文大学非常勤講師。奈良県生まれ。慶應義塾大学在学中に、学生YMCA 委員長。以後、歌舞伎町でフランス人神父の始めたバー「エポペ」スタッフ。2001年に香港移住。NGO勤務を経て2006 年から中文大学で教える。