【宗教リテラシー向上委員会】 ウィズコロナ時代の教会(4) 川島堅二 2021年1月11日

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「ウィズコロナ」のテーマは3回で終わる予定だった。しかし、終わりが見えない。それどころか昨年末には感染力がさらに強いとされる変異ウイルスが国内でも認められ、大晦日には東京都で1日の感染者数がついに1千人を突破した。私の住む東北でも都市部を中心に感染は広がりつつある。まるでホラー映画の世界に放り込まれた心境である。

ホラー映画で思い出すのは『エクソシスト』というアメリカ映画だ。悪魔に取り憑(つ)かれた少女の変貌(首が180度回るとか、仰向けの状態で階段を上るなど)が話題になった。しかし、原作の小説(W.P.ブラッティ『エクソシスト』東京創元社)は、戦時下「主の祈り」を唱えて命乞いする教師の舌を銃剣で切り取り、生徒たちの耳穴に箸を突き刺す兵士の蛮行を冒頭に記す。極限状況に直面した人間の信仰がこの作品の主題なのだ。

したがって、この作品の縦糸は、イエズス会の聖職者(エクソシスト)の悪魔払いによる少女の救済だが、横糸として、この少女の母親クリスと、エクソシストの助手を務めたカラス神父の信仰(人間不信)の回復というもう一つのテーマが随所に織り込まれている。

クリスは成功した映画俳優だ。無神論者の彼女の支えは、自分の才能と仕事、それがもたらした財産、そして一人娘リーガンの存在である。したがって、その娘が原因不明の病に侵され、日増しに自分の娘ではなくなっていくという事態に直面した時に、彼女がしたことは米国中の名医の診療を受けさせることだった。どの医師も専門用語を駆使して娘の病状や病因をもっともらしく説明してくれるが、彼女が最も求めている「癒やし」すなわち娘との絆の回復は与えてくれない。万策尽きた彼女が最後に叩くのが宗教の門(キリスト教)、それまでの彼女の人生においては何の意味もなかった神父という存在だ。有名人であるがゆえに最初は顔を隠して神父と面談するのだが、はじめて自分の重荷を分かち合うことのできる存在に出会い、次第に心を開いていく。

そのクリスの相談を受けたのがカラス神父である。彼は貧しいギリシャ移民の家庭に生まれ、イエズス会の奨学金で大学を卒業し精神科医の資格を得る。奨学金の義務で聖職者になるが、もとより信仰などは持っていない。心を病んだ聖職者のカウンセラーとして働く彼が信じるのは自分の学問と、貧しい中、自分を育んでくれた母親の愛情だけである。したがって、当初はクリスにも宗教などに頼らず、専門医に診てもらうことを強く勧めるのだが、クリスの娘の現実に直面して次第に心を変えていく。人と人の絆、そして人と神の絆の回復こそがこの作品のテーマなのだ。

さて、私たちが直面している新型コロナウイルスは、当然のことながら「悪魔払い」で解決できるような、あるいは解決すべき問題ではない。年末にオンライン開催された「いのフェス」においてこのコラムの執筆陣の座談会が行われ、このコロナ禍にあって宗教者の影が薄いという声もあったが、それはむしろ自然なことかもしれない。感染症パンデミックの解決にまずもって存在感を示すべきは医者、そして政治家であって宗教者ではないだろう。しかし、コロナウイルスが人と人との絆、人と神との絆(礼拝)に深刻な打撃をもたらしていることもまぎれもない事実である。この点においては、宗教者もまた出る幕があるのではないか。あるとしたらそれは何か。そんなことを考えながら新年を迎えた。

川島堅二(東北学院大学教授)
かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。

【宗教リテラシー向上委員会】 ウィズコロナ時代の教会(3) 川島堅二 2020年11月1日

 






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