【宗教リテラシー向上委員会】 お寺の掲示板がアツい! 池口龍法 2020年9月21日

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お寺や教会の正面に来るとよく見かけるのが、ありがたい言葉が書かれた掲示板である。私のお寺にもずっと前から門前に黒板が据え付けられていて、住職就任して以来、毎月言葉を書き換えるのが務めになっている。

このお寺の掲示板が、いまアツい。きっかけは2年前から毎年開催されている「輝け!お寺の掲示板大賞」(公益財団法人仏教伝道協会主催)である。今年も7月1日から10月31日まで4カ月間にわたって開催され、お坊さんたちがしのぎを削っている。これまでの投稿作品は、インスタグラムやツイッターをハッシュタグ「#お寺の掲示板大賞2020」で検索すれば一覧できる。ふと門前を通りがかった人が写真を撮影してアップしたものも少なくないから、掲示板は世間の人々からも愛されていることが分かる。

賞レースが設立されて早々のころから、私も自分で書いたものを投稿している。もっとも注目を浴びたのは、一昨年のお盆に書いた「No ご先祖, No Life」だった。英語交じりのお寺らしからぬ言葉をチョイスしたのは、通りがかりに目にした人たちの心をざわっとさせようという狙いだ。某有名レコード店のキャッチフレーズ「No Music, No Life」を想像させる警句なので、せっかくならと書体もレコード店の店頭やレジ袋に表示されているロゴに寄せた。したがって、「No ご先祖, No Life」は「ご先祖なくしてこの命なし」という文字通りの意味に加え、「音楽もかけがえない楽しみだが、一番かけがえないものはご先祖」という思いが、言外に込められている。

若い世代には、このウィットがおよそ伝わったようで、掲示板の言葉の評判は極めてよかった。だが、英語になじみの薄いご年配の方にはまるで伝わらなかった。「No ご先祖, No Life」を「ご先祖もなければ人生もない」という冒涜的なメッセージだと受けとめて驚かれる方が続出し、対応に追われることになった。しかし、いくら言葉を尽くしてもウィットの部分までは共感されなかった。「掲示伝道」(掲示板を用いた布教活動)の難しさを痛感した。

「輝け!お寺の掲示板大賞」を企画した江田智昭さん(浄土真宗本願寺派僧侶、仏教伝道協会職員)も、「掲示板の言葉は解説とセットで成立する」と指摘する。おそらく、中にいる人たちは「解説がなくても伝わるだろう」とたかをくくっているはずだが、それは勝手な思い込みに過ぎない。よく知られた経典や聖書の一節を書いたとしても、わずかな字数で宗教の深遠な世界を理解してもらうのは難しい。

1年前に江田さんは、「輝け!お寺の掲示板大賞」の投稿作品から選りすぐりの名作をピックアップして解説を加え、『お寺の掲示板』(新潮社)として出版した。この本が重版され続けているのは、それだけ掲示板の言葉への解説ニーズがあるのだろう。

【書評】 『お寺の掲示板』 江田智昭

私も、掲示板だけだと言葉足らずになる点を補うため、今月はYouTubeに解説動画をアップして、分かりやすさに配慮した。聞くところによると、他のお寺では、解説したペーパーを配っているところもあるらしい。いずれにしても、お寺や教会の掲示板は、通りがかりの人たちとコミュニケーションをはかる最適のツールである。経典や聖書の言葉を引用するのがオーソドックスであるが、私は、経典からインスピレーションを得たオリジナルの言葉を書くことにしている。私の感触としては、自分の言葉で語るようになって以来、近所の方もいっそう楽しみにしてくれていると感じる。これからもますます掲示板文化が愛されていくことを願う。

池口龍法(浄土宗龍岸寺住職)
いけぐち・りゅうほう 1980年、兵庫県生まれ。京都大学大学院中退後、知恩院に奉職。2009年に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させ代表に就任、フリーマガジンの発行などに取り組む(~15年3月)。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)/趣味:クラシック音楽

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