愛する人たち、自分で復讐せず、神の怒りに任せなさい。
ローマの信徒への手紙12章19節(参照箇所同書12章9〜21節)
電車の中で高齢者に席を譲るといった、小さなことでも他者へ好意を示すことはそれなりに勇気を必要とするものです。まして敵を愛するということは、もっと勇気を必要とします。恨み骨髄に徹し、怒り心頭に達するほどの相手がいれば、こちらが被害をこうむっただけでも、相手に復讐したくなるのが当然です。世のなかの理屈では、それが筋の通し方だと思うでしょうし、自分でも正当性を主張することでしょう。
信仰の論理は、ちがう形で働くことをパウロは教えるのです。「愛する人たち、自分で復讐せず、神の怒りに任せなさい」(19節)と言います。彼は「愛する人たち」と呼び掛けます。腸が煮えくり返るような思いでいる者が「愛する人」と呼ばれることは、驚きです。「あなたの怒りは正しい」と言われているのではありません。「あなたは愛されているのだ」と言われているのです。否定されていた存在が、肯定へと転換していることを知らせる言葉です。自らを「よし」とする、新しい自分が見える言葉掛けです。
その上で「神の怒りに任せなさい」と言われるのです。神の怒りに任せるとは、神の正義に委ねなさいという意味です。神は常に正しいことをしてくださるからです。