現代の新しいキリスト教解体新書
〈評者〉清水和恵
ガリラヤに生きたイエス
いのちの尊厳と人権の回復
山口雅弘著
新書判・336頁・定価1650円・ヨベル
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半世紀前の話に遡る。著者が北海道で牧師をされていた時、学生たちに語った言葉が忘れられない。「聖書に書いてあることは本当にあったと思うかい? 聖書はね、神話や物語が書かれてあるんだよ……。」その時、大変な驚きと衝撃を受けた。当時、そのようなことを言う牧師はいなかった。いえ、ただ単に出会えてなかっただけかもしれないが、「聖書に書いてあることは、みんな正しくて、そのとおりにあった事と素直に読まなければならない。」といった類はよく耳にした。
だが著者は、聖書に対して「なぜ、どうして?」の問いや自分自身の考えを大事にしつつ、聖書を歴史的に批判的に(否定的にではなく)想像力をもって読むことの豊かさを示してくださった。その聖書への向き合い方や読み解きは、本書においても随所に発揮されていると思う。
本書はガリラヤにおけるイエスの生き方の核心に迫ることを念頭に、主な関心事を3点あげている。その第一は、1世紀にパレスチナのガリラヤで生きたイエスの「歴史的実像」を探求し、なぜローマ帝国の極刑である「晒し柱」(十字架)の死に至ったか。第二は、イエスの処刑後、どのような変遷を経て「迫害されていたキリスト教」が、4世紀末にローマ帝国の「国教」として成立したか。さらになぜ「迫害」する宗教に変質したのか。第三は、一人ひとりの固有な「いのちの尊厳と人権」を回復することを明示し、わたしたちがイエスの「生き方の核心」を受け止めて生きることの不可欠さとキリスト教の「新生」の道をどう示すかである。
著者はイエスを知る上で、ガリラヤに焦点をあてて論述している。イエスが生まれ育ち活動したガリラヤとはどのような地であったか、その歴史的、政治的、経済的、宗教的、文化的な背景に着目し聖書学のみならず、考古学、歴史学、社会学、文化人類学などの諸研究を援用してガリラヤに生きたイエスや人々と、その時代状況を探求している。
つづきは