【哲学名言】断片から見た世界 プラトンの言葉 『国家』から

プラトンと、問題含みの「哲人王」

数あるプラトンの有名な言葉のうちでも、「哲人王」に関する次の言葉ほどひんぱんに批判と議論の的になってきたものもないと言えるかもしれません。『国家』から、問題の箇所を引用してみることにしましょう。

「哲学者たちが国々において王となって統治するのでないかぎり、あるいは、現在王と呼ばれ、権力者と呼ばれている人たちが、真実にかつじゅうぶんに哲学するのでないかぎり、すなわち、政治的権力と哲学的精神とが一体化されて、多くの人々の素質が、現在のようにこの二つのどちらかの方向へ別々に進むのを強制的に禁止されるのでないかぎり、親愛なるグラウコンよ、国々にとって不幸のやむときはないし、また人類にとっても同様だとぼくは思う。」

プラトン ー『国家』よりー 

ここで述べられていることは何かのたとえではなく、プラトンの文字通りの主張であると考えるべきでしょう。すなわち、政治なるものは、それが真に善い政治であることを目指すならば、哲学者によってこそ行われなければならない。あるいは少なくとも、政治を行う人々は同時に、自分自身でも真剣に哲学をするのでなければならない。

「ひどい目にあいますよ、ソクラテス!」

自分の言っていることがどれほど多くの非難にさらされることになるのか、プラトンはよく分かっていたので、『国家』の中でソクラテスにこの言葉を言わせたのち、彼はソクラテスの対話相手のグラウコンに、次のような意味のことを言わせています。いやいやいや、ソクラテス、そういうことを言うからには、あなたは相当なひどい目にあうことを覚悟しなくてはなりませんよ。きっとたくさんの連中があなたのところに押しかけてきて、今あなたがおっしゃったことに対して、容赦のない攻撃をしかけてきます。彼らはあなたをとっちめてやろうと、目の色を輝かせて襲ってくるに違いありません。あなたは、それだけの猛攻撃に対して身を守るための準備が、おありなんですか?

現実の泥くささにかかずりあわなければならないという点において、政治ほどこの必要性を覚悟しなければならない営みも他にないということについては、今さら言うまでもないことでしょう。身も蓋もない話ではありますが、世の中には真実を語るよりも、お金でも配ってしまった方が事がはるかに効率よく進むというケースはいくらでもあると考える人は、決して少なくありません。政治などはまさしくその最たるものなのであって、ことこの営みに関するかぎり、哲学などはお呼びでないというのは、今も昔もまったく変わらないのではないだろうか……。

プラトンが「哲人王」を主張したわけ

プラトンの本を読んでいると、この人が古今稀に見る人間通であったことは文章の節々からも伝わってくるので、彼が自分の主張に対して上のような批判が浴びせられるであろうと前もって覚悟していたことは、ほぼ確実であると見てよさそうです。それにも関わらず、彼が上に挙げた「哲人王」の思想を自分の最も重要な本の中心部分に書きつけたのはおそらく、それを主張するだけの意味があると感じていたからであろうと思われます。

現実なるものが簡単には動かしようがなく、いかんともしがたいものであることは確かである。しかし、だからと言って、そのまま現実の流れに飲み込まれてしまって終わるというのでは、人間として生まれてきた甲斐がないというものではないか。人間の尊厳は、本当の意味で「地の塩」と呼ばれるに値する人間として生きることのうちでこそ、現実の動かしがたさを深いところから見つめた上で、それでも真実のような何かのために人生を捧げることのうちでこそ示される。人間が幸福に生きるためには真実が必要であるというのなら、政治の営みにも真実が必要であることは、論じるまでもないことではないか。まず間違いなく「哲人王」の思想はこれからも、絶えることのない批判を受け続けることであろう。だが、現実の切迫性などものともせずに、「現実よりも現実的なもの」として眩いばかりの輝きを放ち続けるのが、イデアなるものの本分なのではあるまいか。したがって、この思想を取り下げる必要性もまた、全くないと言わざるをえない……。

おわりに

プラトンが『国家』で論じたことのエッセンスは、世界中に存在する「大学」の制度の形をとって、また、本当の意味で社会で活躍することのできる人物を作り上げる「教養」の理念のうちで、今日まで影響を及ぼし続けています。筋金入りの理想主義者であった彼が本に書きつけて残した言葉は、逆説的なことに、目に見える現実の方にまで深い変化を引き起こさずにはおかなかったと言えるのかもしれません。

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