10年目の3.11。災害支援活動を通して見えてきたものとは。国際NGO「オペレーション・ブレッシング・ジャパン」に聞く

東日本大震災から10年目。表面的には復興が進み、もとの活気を取り戻しつつあるように見えるが、被災者をはじめ、多くの人々が今なおやり場のない悲しみを抱えて生きている。

3.11の震災をきっかけに活動を開始した、国際NGO「オペレーション・ブレッシング・ジャパン」では、東日本大震災をはじめ、2018年の北海道地震や2020年の九州豪雨など緊急災害支援を中心に、全国各地で支援活動を行ってきた。
記憶に新しいところでは、今年2月13日に起きた地震の際に震度6弱を記録し、約2900戸が断水した宮城県山元町で、一人暮らしの高齢者宅などを一軒一軒訪ねて回り、給水支援や安否確認を行っている。

2021年2月に起きた地震の際に、山元町での支援活動の様子

「緊急災害支援というと、家の中から泥を掻き出したり、屋根を修復したりといった作業を想像される方が多いと思いますが、それだけではないんです」と話すのは、同団体の広報で、実際に支援活動にも携わっている平井恵さん。今回は平井さんに、東北の復興の現状や、10年間の活動を通して見えてきた課題について話を聞いた。

「被災地では仮設住宅の解体が進み、自宅を再建された方も増えるなど、ハード面の復興が進んでいます。一方で、今になって震災時に受けた心の傷が言葉にできるようになったという方もたくさんいます。ご家族を亡くした方や家を失った方、原発事故の影響でいじめを受けた方・・・それぞれとても辛かったはずなのに、『今はみんな大変だから、自分よりも大変な人がいるから』と気持ちにふたをしてきてしまった。その我慢してきた思いが、10年経ってやっと表に出てきているんですね」

平井さんは、津波で突然家族を奪われたり、原発事故によって故郷やコミュニティを失うなど、簡単には割り切ることができない心の問題、「あいまいな喪失」と時間をかけて向き合うことが大切だと話す。
あいまいな喪失とは、米・ミネソタ大学の名誉教授、ポーリン・ボス博士が提唱する理論だ。災害などで家族や知人が行方不明になった、突然の病で看取ることができなかった等、身体的には不在だが心理的には存在し続ける「さよならのない別れ」、また、原発事故で突然故郷を離れなければならない、認知症やうつ病等の病気で以前とはまるで違う人のように感じるなど、身体的には存在しているが心理的に不在な状態にある「別れのないさよなら」の2つのタイプに分けられる。

「ポーリン・ボス博士は、あいまいな喪失に耐え得る心を育てるために、情緒的なつながりを持つこと、“心の家族”を作ることが必要だと言います。
震災を経験した多くの方は、前に進みたいという想いと、以前の生活に戻りたいという想い、相反する二つの気持ちを胸に抱えています。私たちはどうしても「前を向いて生きていこう」というポジティブさばかりにフォーカスしがちですが、目に見えない形で何かを失ってしまった人を無理やり悲しみから引っ張り上げるのではなく、同じペースで寄り添いながら一緒に歩んでいくことが大切だと思うのです」

2019年には、原発事故によって多くのコミュニティが分断された南相馬市に、新たに住民同士がつながる場所として「Blessing Room~ブレッシング・ルーム~」を設立。学童保育や子どもたちのための英語教室、大人も子どもも参加可能なゴスペル教室など、さまざまなプログラムを通して交流の場を提供している。

ブレッシングルームで開催されているゴスペル教室の参加メンバー

「ブレッシング・ルームに通っている子の中に、震災をきっかけに小学4年生からいじめを受け、学校に行けなくなってしまった女の子がいます。4年前に初めてゴスペル教室に参加してくれたのですが、人と関わることに大きな不安や葛藤を抱えていた彼女が、学童保育のボランティアに参加したり、アルバイトができるようになるまでに変化したのです。春からは、保育士になりたいという夢を叶えるために東京の専門学校に通うことも決まりました」

大切なのは、傷が完全に癒されることではなく、それを共有して心でつながり、一緒に寄り添って生きていく人がいること。聖書に書かれているように「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣く」(ローマの信徒への手紙12:15)ことであり、「つながることは、立派な支援なんです」と平井さん。
今後は、スピード重視の緊急災害支援と同時に、さらにコミュニティを通じた人々とのかかわりも広げたいという。

学童保育でコースター作りを楽しむ子どもたち

「各地で緊急災害支援を行う中で、地域から孤立していて身近に助けを求められる人がいない、誰に助けを求めたらいいかわからないという方々をたくさん見てきました。これが復興現場の現状です。人を孤立させないために必要なのは“つながる”こと。それも、災害が発生してからつながるのでは遅いんです。平時から地域全体でつながり、何かが起こった際には地域でお困りの方を助ける仕組みが必要です」

10年間の活動を通して培った経験を活かし、災害現場で起こる問題の周知を図りながら、市民の力で困っている人を助ける仕組み「市民ソーシャルワーク」、それを担う「市民ソーシャルワーカー」を育成するプロジェクトも立ち上げられた。

「見過ごされがちですが、どんな場所にも高齢者や障がい者、日本語がわからない外国籍の方など、災害弱者と呼ばれる方が多く存在します。私たちは、ひとりでも多くの方が身近に助けが必要な人がいるということに気づき、発信するようになったら、災害現場が変わるんじゃないかと考えています。協力者を増やし、災害に負けない地域ぐるみのネットワークを育てることが私たちの課題であり、願いでもあります」

3.11のたびに東北を思い出すことよりも、自身の身に置き換えて備えてほしい。地域とのかかわりを見直してほしいと平井さんは繰り返す。
近い将来、首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起こる可能性が高いともいわれている。
あなたには、身近に「助けて」と言える人がいるだろうか。あるいは、住んでいる地域に、災害時に孤立してしまいそうな人はいないだろうか。
明日は我が身。改めて、今置かれている状況や環境を見直してみたい。

◇オペレーション・ブレッシング・ジャパン
米国バージニア州に本部のある国際NGOオペレーション・ブレッシング(Operation Blessing International)の日本支部として2011年に活動を開始。キリスト教精神に基づき、“苦難の連鎖を断ち切り、生きる希望”を届けることを基本理念に、緊急災害支援をはじめ、被災者の心のケアなど様々な活動を行っている。
公式サイト https://objapan.org/

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