【インタビュー】泉バプテスト教会付属いづみ幼稚園園長 城倉啓さん(後編)

 

東京・世田谷の下馬(しもうま)で70年近く地域の幼稚園として親しまれてきた日本バプテスト連盟・泉バプテスト教会付属いづみ幼稚園。その牧師であり園長である城倉啓(じょうくら・けい)さんに話を聞いた。

城倉啓さん

城倉さんは、曽祖父も祖父も父も牧師。兄弟5人の末っ子として生まれた。西南学院大学の神学部に入学し、専攻科修了後、松本市の教会に牧師に。6年間そこで過ごした後、奨学金を得て米国の大学に留学して修士号を取得し、2002年に帰国。板橋区の教会で11年間、牧会をした後、5年前、泉教会に赴任した。

──牧師と園長の兼任はたいへんでは?

泉教会に招聘(しょうへい)された時、この教会を日本一暇(ひま)な教会にして、幼稚園の園長に専念しようと決めていました。

日本の教会を見ると、日曜日の朝から晩まで信徒を拘束しています。奉仕があって、ミーティングがあって、イベントをやる場合は委員会を立ち上げ、役割がさらに増える。民主的であろうとするほど忙しくなってしまいます。ほとんどの人が月曜日から仕事なのに、体を休める暇がない。

私も前任地ではそのような教会形成を心がけていましたが、泉教会では考え方を改めました。自分も月曜日から牧師職以外の職を持ったからです。

だから、礼拝後は教会では何もしないで、家での時間を大切にしようという考えです。月に一度の昼食もなくし、執事会や理事会の数もこれまでの半分以下にしました。イベントもほとんどしません。そうしても特に問題はありません。自主的な交わりは行われていますし、むしろ、いろいろな人が教会に来るようになりました。「暇である社会は人間らしい」のです。暇になることが教会の雰囲気をよくしていることもあり、私もメッセージを取り次ぐ以外は、教会では怠け者のかなりゆるい牧師です。

──幼稚園のほうはどうですか。

幼稚園は別です。月曜日から金曜日の定時、教職員と同じ部屋で勤務に励んでいます。これだけ長い間、理念を掲げて地域に定着していますから、幼稚園の伝統を継承しつつ、教職員と一緒に汗を流して管理職の職責を懸命に担っているつもりです。

──保育で大切にしていることは何ですか。

「一人一人をみんなで育てていきたい」ということです。神様から与えられた命は一つ一つ異なります。人には個性があり、すべての人は唯一無二の存在です。神様が手づくりで創ってくださった命を、私たちも手づくりで育てていきます。

それと同時に、神様から「ただ」で与えられた尊い命を持っている私たちは、「ただの人」でもあります。「どんな人も同じ人間なんだ」ということを学び、お互いが協力し合うことの素晴らしさを知ってほしいと思っています。

──幼稚園の生活について教えてください。

現在、年少・年中・年長と54人の園児がいます。1学年1クラスです。随時、年齢を超えて縦割り編成された4グループに分かれて保育を行うこともあります。保育時間は、月・火・木・金が午前9時~午後2時半まで。水曜日は午前保育で、午前9時~11時半までです。毎朝、礼拝をささげることから1日が始まります。

キリスト教主義でありながらアウトドアであることにいづみ幼稚園の特徴があります。外で元気に遊ぶこと、実社会を知ることを何よりも優先しています。7月は毎日、世田谷公園のプールに通います。自然に触れ合うための行事も多い。

年少でも料理保育があり、目黒区にある碑文谷(ひもんや)公園までの全園遠足で1時間半歩きます。年中で、幼稚園でのお泊まり、銭湯体験、高尾山への山登り(ケーブルカーの助けも借りて)、登山靴のひも結びも練習します。年長になると、2泊3日のアウトドア・キャンプでの飯ごう炊さん、手づくりの竹馬(運動会)、高尾山(すべて自力)、冬には新潟で雪遊び体験もあります。

ほとんどの園外保育では公共交通機関を利用し、電車やバスに乗る際のルールを学びます。大きな行事だけでなく、ふだんも晴れたら外に出て遊ぶ。こういったことを通して人間関係づくりや生活する力を身につけていくことになります。

また、誕生会礼拝時の各人インタビューなど、子どもたちは自分の意見を言うことを学んでいきます。絵本の蔵書も豊富で、毎日読んでいます。いづみ幼稚園の保育は、「キリスト教主義×アウトドア体験×自己表現」なんです。それを3年間かけて積み重ねていきます。

仲間たちと一緒に歩いていくうちに、より遠くまで歩けるようになることを、大人も子どもも共に実感していきます。「共に、より遠くへ歩く」が保育理念です。保護者の方々にも、「3年間という長い目で、自分の子どもだけでなく一人一人の成長を、温かい眼差しをもって見てほしい」と伝えています。

──少子化は幼稚園経営にどのような影響がありますか。

いづみ幼稚園は、転勤の多い公務員の官舎に近く、人の移動が激しい場所にあります。海外からの引っ越しも多く、そういう人たちが困らないように途中入園も積極的に引き受けていますが、常に転出と転入の人数が同じとは限りません。

少子化対策としての保育園や認定こども園などの拡充政策には、女性の就業率を上げるという点で趣旨に賛同しています。とはいえ、幼稚園経営にとって決して追い風ではありません。

私は根本的には長時間労働社会の問題だと思っています。幼稚園の保育時間レベルの短時間労働社会になればいいのではないでしょうか。男性と女性の分断、女性同士の分断、幼稚園と保育園の分断、労使の分断を乗り越える「暇な社会」を目指したいです。

教会の礼拝堂。クリスマス、発表会、卒業式もここで行われる。

──教会と幼稚園はどのような関係が理想でしょうか。

「霊の結ぶ実は愛であり、喜び、平和、寛容、親切、善意、誠実、柔和、節制です。これらを禁じる掟(おきて)はありません」(ガラテヤ5:22~23)のとおり、「寛容」であることが人の心を前向きに動かします。寛容な精神は、相互尊重の原動力です。教会が幼稚園を伝道の手段としてのみ用いようとする時に、教職員・保護者・子どもたちに「非寛容」をメッセージとして発信する可能性があります。むしろ、聖書の示す寛容の精神をはぐくむキリスト教主義の教育を、一つの福音として地域に提供していきたいです。

経営母体としての宗教法人泉バプテスト教会は、この世的にははなはだ小さく頼りない組織です。神様の憐れみにより、教職員の忍耐と勤労により、保護者・地域の方々の見守りと支えにより、つまりは「寛容なる他者たちによってのみ、いづみ幼稚園の働きが毎日支えられている」ことに感謝をしています。

教会と幼稚園のよりよい関係は、寛容な愛に基づく相互尊重だと思います。それぞれが分に応じて歩み、お互いの役割を尊敬し、距離を保ってゆるやかに共に生きることです。教会は、無条件の愛を大人にも子どもにも語ります。幼稚園は、子育てを通じて子どもと大人の潜在力を引き出します。両者に上下をつけず、両者を無理に一つにしないことがいいのではないでしょうか。

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