嵐の前の静けさ――香港教会の大再編への挑戦 胡 清心 【この世界の片隅から】

香港では2019年に逃亡犯条例改正反対運動が勃発し、警察は1万人以上のデモ参加者を逮捕。そのうち2800人以上が起訴された。2020年6月30日、香港国家安全維持法(国安法)が施行され、「国家分裂・国家政権転覆・テロ活動・外国勢力との結託」の四つの犯罪が取り締まり対象とされ、最高刑は無期懲役と定められた。2021年1月には、立法会選挙の予備選に参加した民主活動家47人が「国家政権転覆罪」の容疑で逮捕され、今日まで2年以上にわたって収監・裁判中だ。

また同年6月には大手新聞の「リンゴ日報」が廃刊に追い込まれ、その創業者の黎智英(ジミー・ライ)ら幹部が逮捕された。さらに同年12月にはネットメディアの「立場新聞」も廃刊を余儀なくされ、編集長ら幹部が逮捕された。その後も多くの民間団体の解散が相次ぎ、それに加えて2020年には新型コロナウイルス感染拡大が起こり、香港政府による集会制限令が3年もの長期に及んだこともあり、香港の市民社会は寒い冬を迎えている。

香港では報道・言論の自由が急速に失われ、法制度がますます悪化し、中国の影響が波のように押し寄せてきたため、多くの人々が香港の将来に希望がないと感じ、新生活を求めて海外移住を選択するようになった。イギリスやカナダは香港人が容易に移民ビザを取得できるため、ここ2年間、香港は1997年(香港返還の年)の時よりも激しい人口流出が起こっている。そうした中、1997年と同様なのは、信徒であれ牧師であれ、教会内の海外移民者の割合が、社会全体の平均よりも高いことである。これは、香港の教会に中産階級が多いことが関係しているだろう。

エキュメニカル・ハブ教会の集会の様子(同教会のHP=www.hubchurchhk.org)

「香港基督教更新運動」(キリスト教団体)の推計では、ここ2年間で、香港の教会では移民による信徒流出が6万人にも及び、それは香港全体の礼拝出席者数の22%を占めている。「時代論壇」(キリスト教新聞)によると、いくつかの大規模教会では信徒の4割、あるいは半数が移民してしまったという。しかもその多くは30代から40代の子育て世代であり、教会のリーダーや奉仕者であることが多い。信徒数や献金の減少に加え、働き手不足のため日曜日の礼拝回数を減らさなければならない教会もある。

香港の主流派教会や大規模教会の信徒流出には、移民増加に加えてもう一つの理由がある。それは、若者たちが教会に幻滅してしまっていることだ。特に、2019年の逃亡犯条例改正反対運動の際に教会がとっていた政治的立場、あるいは非政治的であろうとする態度に対して失望しており、教会の教えがあまりにも「地に足がついていない」と感じているのだ。また、伝統的な教会の制度構造があまりにも硬直化していて変化を許さず、自分たちが活躍する余地がないと感じている者や、教会生活が自分の霊的ニーズを満たしてくれていないと感じ、他の仕方で自己充足を得ようとする者もいる。

しかし同時に、若い伝道者の中にはあえて逆境に立ち向かい、新しいタイプの教会を開拓する者もいる。彼らは伝統的な教会の形式に加えて、「ニューノーマルな香港社会」〔訳注:国安法以後の状況を指す〕に適した教会のあり方を模索し、困惑している若者たちへのより適切な牧会を目指そうとしている。例えば、ある教会ではカフェや共有スペースを設け、コーヒーやバンド演奏で若者を惹きつけている。新会堂を建て、平日は漢方クリニックを営み、週末には教会に様変わりし、コミュニティフェアを開催したり、学生が家庭教師をしたりする共有スペースとなるところもある。

「エキュメニカル・ハブ」という教会(2021年設立)では、難民・少数民族・外国人家政婦・中国大陸からの移民など、国内外の多様な信者を迎え入れ、政治的状況が厳しい中にあって、政治・社会的な関心や参与を香港内に留まらず、グローバルなものへと広げようとしている。

今の香港は台風の目の中にいるようなものであり、一見静かだが、嵐の前の静けさだ。いずれにせよ、100年に一度の大激動の中で、香港の教会は大再編を迫られている。

(原文=中国語、翻訳=松谷曄介)

フー・チンシン 上海生まれ、香港在住。香港中文大学、文化・宗教学研究科で博士号を取得。現在、香港のキリスト教新聞「時代論壇」(Christian Times)の編集者・記者。猫4匹を飼育。独学で日本語を勉強中。

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