オサジェフォ・ウフル・セイクウ著/山下壮起訳 アーバンソウルズ(ネルソン橋本ジョシュア諒)【本のひろば.com】

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評者: ネルソン橋本ジョシュア諒

ヒップホップが顕す〈声〉の霊性
〈評者〉ネルソン橋本ジョシュア諒


アーバンソウルズ
黒人青年、宗教、ヒップホップ・カルチャー

オサジェフォ・ウフル・セイクウ著
山下壮起訳
B6変型判・160頁・定価2640円・新教出版社
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 米ミネソタ州でジョージ・フロイドさんが白人警官に殺害された事件から二年が経つ。社会の周縁を生きる多くの若者が、アメリカの〈原罪〉ともいえる人種差別に対して憤りと苦しみを感じ、制度的人種差別システミック・レイシズムと警察の残忍行為に対して抗議の声を上げた。しかしこの事件以降も、アメリカ各地で黒人の命が奪われ続けている。事件が起きるたびに、〈ブラック・ライヴズ・マター〉(BLM)の抗議運動が再燃し、差別と暴力の連鎖を断ち切るために人々が連帯する。それにもかかわらず、黒人たちの尊厳は繰り返し傷つけられ、否定されている。フロイドさんは、八分四六秒もの間、警察官に首を押さえつけられて亡くなった。「いつまで、わたしの魂は思い煩い/日々の嘆きが心を去らないのか」(詩篇一三・三)、と叫びたくなるような事件が絶えない。
本書の原著は、BLM以前に書かれたものではあるが、黒人社会の「いつまで」という嘆きに真正面から向き合っている。著者オサジェフォ・ウフル・セイクウ牧師は、神学者そして聖職者として、「人間の苦難に終わりをもたらすことができるのか」という実存的問いに悩まされ続けてきた。本書は、ミズーリ州東部での黒人青年の殺人事件とその葬儀の場面から幕を開ける。セイクウ牧師は、過酷なストリートの現実と黒人の実存・経験から、ヒップホップと黒人神学の関係性を鮮やかに紐解いていく。統計データとラップの歌詞を用いて、若い黒人の貧困や都市の問題に注目している。ヒップホップ・カルチャーを神学的に再解釈し、ヒップホップ世代を「神学的行為者エージェント」として捉え直すのである。ヒップホップを通して、伝統的教会とはオルタナティブな霊的・宗教的な言説と生き方が構築できるのだと主張している。ローリン・ヒルやトゥーパック・シャクールなど、代表的なアーティストの歌詞を解説しながら、ビートとリリックに沿って、聖書の預言者的な霊性と抵抗の声を見出していく。また、黒人教会が批判してきたギャングスタ・ラップにも新たな光を当て、インナーシティの黒人解放の可能性を展開する。
本書は私たちに、インナーシティの劣悪な環境と構造的暴力に苦しむ人々へ目を向けさせてくれる。フロイドさんの事件後、日本でもBLM運動が起こったが、それは日本での黒人差別だけでなく、入管収容所をはじめとした多くの人権侵害に関心を寄せることへ繋がった。日本のストリートから社会の数々の矛盾と不正が告発されている。また、ヒップホップ・カルチャーは日本にも根付き、若者にとって社会の生きにくさを表現する空間でもある。セイクウ牧師がヒップホップ世代を「神学的行為者エージェント」とみなし、インナーシティにおける若者の影響力(=「ジュヴィノクラシー」)に注目したように、日本で暮らす私たちや日本の教会は、社会の周辺へ追いやられた人々の多様な〈声〉に真剣に耳を傾けなければいけない。
本書は、セイクウ牧師のプレイリストを聴いているかのように、ページをめくるたびに新しい曲に魅了され、力強い言葉が魂に突き刺さる。最後に、本訳書に収められている訳注、訳者解説、アーティスト索引は、読者の思索に欠かせない手引きとなるであろう。

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