2月20日に銀座・教文館で開催されたトークイベント「教会とセクシュアルマイノリティ」がYouTubeで公開されている。本イベントは、すべてのセクシュアリティの人が安心してイエス・キリストとつながるために活動する「約束の虹ミニストリー」が企画・執筆した『なんで教会がツライのか考えてたら出来た性理解のためのブックレット』(株式会社エメル)の発売を記念して行われたもの。ブックレットにはイラストやわかりやすい言葉で、教会で起こりうる差別や、当事者も非当事者も、どんな対応をしたらいいかなどが簡潔にまとめられている。
トークイベントには、セクシュアルマイノリティ当事者として約束の虹ミニストリー代表の寺田留架(るか)さんをはじめ、神学生の川口弾(だん)さん、エキュメニカルプロジェクト(えきゅぷろ)スタッフの長安まみさんが登壇。キリスト新聞社の松谷信司編集長が司会を務めた。同イベントは3部構成になっており、第1部ではブックレットが作られた経緯や、登壇者からの感想が述べられた。
まず、私たちは気づかないうちに、目の前にいる人を傷つけている可能性があることを知る必要がある。例えば、礼拝の際に多くの教会の受付に置かれている名簿。トランスジェンダー男性である寺田さんは、ホルモン治療や手術などを行っていないことから「男だと記入したいけれど、『あなたの体は女だ』と言われたらと思うともう嫌で、受付の段階で帰りたくなる」と話す。
カミングアウトをきっかけに傷ついた経験があるという長安さんは「教会内に(セクシュアルマイノリティは)いないという前提が強くあります。私自身は必ずしもみんながカミングアウトをする必要はないと思っていますが、本当に誰もがいやすい環境を整えるための提案がされているのがいいなと思いました」とし、川口さんはブックレットにすべての答えがあるわけではなく、「その教会がある地域やメンバー、規模などを踏まえたうえで、一つひとつの場所でどんな選択をしていくのか、解決策を話し合うためのツールとして活用してもらえたら」と話した。
寺田さんはブックレットを手がけた経緯をこう語る。
「当事者が教会で自分のことを伝えようと思う時、自分自身にもセクシュアリティを完璧に説明するのが難しかったり、『それは罪だ』と言われてしまった時に反論することもできない。他の人たちが同じような認識の中で、自分だけが釈明をするのはすごくしんどいと思うんです。そんな時に、『言葉にするのは難しいけれど、とりあえずこれを読んでください』と言って渡せるような、手軽に使えるツールにしたいなと思いました」
第2部では登壇者それぞれのライフストーリーが語られた。長安さんが昨年、志願者として入会した修道会での経験や、川口さんが教会に留まりながら教会の中の問題と向き合っていく姿を模索する思い、「トランスジェンダーではなかったら神様の恵みがわからない人生を送っていたかもしれない」と話す寺田さんの証しに加え、松谷さんが知識のなさからしてしまった失敗談についても語られた。今回、松谷さんのある発言が論議を呼んだが、セクシュアリティにかかわらず「悪意なくとも誰かを傷つけてしまう発言」には、少なからず心当たりがあるはずだ。
第3部は質疑応答。視聴者から寄せられたさまざまな質問に登壇者が回答した。
「教会学校でセクシュアリティについてどう教えたらいいですか?」という問いに対して長安さんは、「セクシュアルマイノリティの割合は13人に1人。まず、クラスにいても当たり前のことだと心に留めてほしいです。当たり前のこととして『あなたはあなたのままでいい、隣にいる友達もその子のままでいい』と伝えることではないでしょうか」とし、川口さんも「セクシュアリティについての知識よりも、神や人について豊かに語ることができる土壌を常に作っておくことが大事ではないか」、松谷さんも「教会学校でカリキュラム的に学ぶよりも、教会全体がありのままで生き生きしていて、教会にいるみんなが愛され、体験的に学ぶことができれば」と語った。
「セクシュアルマイノリティの当事者かなと思う人が親類にいますが、こちらから聞かないほうがいいですか?」という問いに対して寺田さん、長安さんは「なぜ聞きたいの?」と問いかけ「仮にそうだったとして、カミングアウトをされる準備はできているか? ただ自分が気になっていることを確認して、すっきりしたいだけなら聞かないで」と回答した。
最後の質問は、最も多く寄せられる質問でもある「聖書に“同性愛は罪”と書かれていることをどう受け止めたらいいか?」。この問いに対してどう回答するか、試行錯誤してきたという寺田さんは、「聖書にはいろいろなことが書かれている中で、自分は『罪』を犯す心配のない立場で、そこから切り離されることができない人に対してその言葉を投げつけるのは、クリスチャンとしてすべきことかどうかを考えてほしい」と訴え、聖書にはどのように書かれているかが学べるとして、山口里子著『虹は私たちの間に―性と生の正義に向けて』(新教出版社)を紹介した。
長安さんは「せっかく聖書の中に“最も大切な掟”が書かれているのだから、それを一番大事にすればいいんじゃないかと思います。神様との個人的な関係の中で、神を愛すること、人を愛することは第一に来るのは、どの教派でも同じじゃないかなと思います」と言い、それを受けて川口さんは「ジェンダー理論の専門家、ジュディス・バトラーが『どうして人権を尊重しなければいけないのか?』という問いに対して『あなたは人権が尊重されない社会を生きたいですか?』と答えました。それを置き換えると、『どうしてLGBTの人たちを、正しくないように思える道を歩んでいる人を愛さなくてはいけないの?』という問いに対しては、『すべての人が愛されない世界をあなたは生きたいですか?』という答えになるのかな」と述べた。
イエスは言われた。「『心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。』これが最も重要な第一の掟である。第二も、これと同じように重要である。『隣人を自分のように愛しなさい。』」
[マタイによる福音書22章37-39節](新共同訳)
トークライブの様子は下記より閲覧できるほか、『なんで教会がツライのか考えてたら出来た性理解のためのブックレット』は、株式会社エメルのHPより購入可能(1冊500円。まとめ買いによる割引あり)。「罪か罪じゃないか」という「神学的考察の対象」ではなく、互いに「1人の人として」改めて知り合うため、向き合うために活用していただきたい。