「がん哲学外来・メディカルカフェ」が14日、日本バプテスト連盟・常盤台バプテスト教会(東京都板橋区、友納靖史牧師)で開かれた。がんを抱えながらもどう生きるかについてグループ・ディスカッションをする。がん患者やその家族、がんのことが心配な人など、クリスチャンでなくても無料で参加できる。
「がん哲学外来」とは、がん患者と医療現場の「隙間(すきま)」を埋めるために生まれたもので、クリスチャン医師の樋野興夫(ひの・おきお)氏が提唱した。患者はがんにかかって初めて死と向き合い、これからどう生きるべきかを考える。一方、医療現場は治療で精いっぱいで、患者やその家族の精神的なケアまでできないのが現状だ。そこで、科学としてのがんを学びながら、がんを哲学的に考えるため、集まりやすい場所で、立場を超えて交流するのが「メディカルカフェ」。今、全国に広がっており、一般メディアでも取り上げられるほど注目されている。
常盤台メディカルカフェの代表者は、同教会員の米澤雅子さん。数年前、夫ががんにかかり、2013年のクリスマスイブに天国へ送った。生前、お茶の水クリスチャン・センターで行われているメディカルカフェに夫と一度だけ参加した。「『元気になったら自分もメディカルカフェをやりたい』と話していた夫の姿が忘れられない」と米澤さんは話す。
夫が召天した半年後、同教会で樋野氏が講演。それから1年間ほどの準備期間を経て、本格的な活動を始めた。同教会でのカフェは年に6回ほど。多い時には40人以上の人々が集まることもある。参加者の多くは、教会メンバーではない地域の人々。
まず、「歌声喫茶」のように、懐かしいポップスや演歌、童謡を皆で歌う。賛美歌はクリスマスの時に歌うくらい。この日は、美空ひばりの「川の流れのように」や中島みゆきの「時代」などを声を合わせて歌った。
「これが好評なんですよ。音楽の力って偉大ですね。懐かしい歌を歌っているうちに、涙ぐむ人の姿を見ることがあります」とメンバーの一人。
その後、テーブルの上にはお菓子や手作りのゼリーが並び、コーヒーや冷たいお茶などを飲みながら、思い思いの「カフェ」を楽しんだ。「がん」というデリケートなテーマで集まった人々だが、その雰囲気は明るく、穏やかな空気が流れている。
この日のカフェは、樋野氏の著書から三つの言葉を選び、グループ・ディスカッションをした。「心配は、命の毒である」。「使命感を大切にする」。「いままでどんな生き方をしてきたかは、どうでもいい」。
そして、グループで話し合ったことを次のように発表した。
「『私たちの使命』とは、日々を精いっぱい生きることではないか。また、『いままでの生き方』ではなく、『最後の5年間』をどう生きるかが大切とも樋野先生はおっしゃっている。『最後』がいつか分からないから、逆算はできない。それならば、今日から、まず悔いなく生きることが大切なのでは」
あるメンバーはカフェの意義をこう語る。
「口を一文字に結んで、なかなか心を開かなかった参加者も、『かかった人にしか分からないわよね。でも、私たちがこうして会えたのは奇跡よね』と、同じくがん闘病中の参加者が話しかけると、顔が明るくなったこともありました。この会は、『患者会』とも『家族会』とも違う位置づけだと思っています。『伝道集会』とも違うのです。病気はがんだけではありませんが、病気と向き合っている方々が少しでも前向きな気持ちになってくれればと活動を続けています。『使命』を全うして、たとえ天国に行く日が来ても、それは穏やかな最期ではないかと思うのです」
常盤台メディカルカフェの次回の開催は、10月6日(土)13時から。