50年封印されていた音楽フェスの頂点、ついに解禁!映し出されるアフリカン・アメリカンの歴史と文化 

サンダンス映画祭のオープニング作品として上映され、ドキュメンタリー部門審査員大賞と観客賞をW受賞した音楽ドキュメンタリー「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」が8月27日(金)に公開される。

この作品は、1969年6月29日から8月24日までの日曜に開催された「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」にフォーカスを当てた音楽ドキュメンタリー映画。監督を務めるのは、4度のグラミー賞受賞者であり、エミネムやジェイ・Zのプロデューサーとしても知られるヒップホップ界の重要人物、アミール・“クエストラブ”・トンプソン。クエストラブにとって初監督作品となる。

ニューヨークのハーレムで開かれたこの同フェスは、若きスティーヴィー・ワンダーやB.B.キング、ゴスペルの女王マヘリア・ジャクソンとメイヴィス・ステイプルズ、当時人気絶頂のスライ&ザ・ファミリー・ストーンなど、全米ヒットチャートを席巻していたブラック・ミュージックのスターが集結し、30万人を熱狂の渦に巻き込んだ歴史的な野外コンサート。しかし、なぜかその時に撮影されたフェスの記録は50年もの間封印されたままになっていた。

今回、誰の目にも留まることなく眠り続けていた映像素材とインタビューをもとに、同フェスのの全貌を50年ぶりに明らかにした。劇中ではライブ映像に重点を置きながらも、ベトナム戦争、ジョン・F・ケネディ、マルコムX、ロバート・ケネディ、キング牧師暗殺といった、過去のニュースを差し込み、生きたアメリカ近代史としての見応えも兼ね備えた極上の音楽ドキュメンタリーに仕上がっている。

圧巻なのは、同フェスの1年前に非業の死を遂げたキング牧師に捧げる、マヘリア・ジャクソンとメイヴィス・ステイプルズの歴史的な熱唱だ。聴衆を熱狂させ、陶酔させる彼女たちのパフォーマンスは、日本で聞くゴスペル音楽とは全く違う。まるで何かに取り憑(つ)かれたようだ。劇中のインタビューの話を引用すれば、アフリカン・アメリカンのゴスペルには、アフリカの精霊帰依に通じるものがあるという。

奴隷として、アフリカからアメリカに連れてこられ、それまでの宗教や文化が奪われてしまった黒人たち。それでも魂の救いを求めて、キリスト教の福音に出会い、その中で生まれたのがゴスペルだった。奴隷制度が廃止された後も、厳しい人種差別が続いてきた。それでも、明日への希望を見出すために、神をたたえ、神とともに生きる喜びを表現するゴスペルは、黒人たちの祈りのエネルギーであり、ある意味文化なのだ。日本にいては決して真似できないと感じた。

ブルース、ジャズ、ゴスペル、R&B、ソウル、ファンクなどアフリカン・アメリカン音楽の全てが詰まった「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」。多様化する黒人文化の決定的瞬間だった。監督のクエストラブは、この映像が封印され続けてきたことは、黒人文化が抹消されてきたことだと述べ、次のように訴えている。

これは日の目をみるべき映像だ。当時の黒人社会を巡る状況が分かる。政府や警察が市民をどう扱ったか、目の当たりにできる。そして発言する黒人の姿を。自分が生きている間はこうした黒人文化の抹消が再び起きないようにしたい。

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』(原題:Summer of Soul (…Or, When the Revolution Could Not Be Televised))

監督/アミール・“クエストラブ”・トンプソン
出演/スティーヴィー・ワンダー、B.B.キング、フィフス・ディメンション、ザ・ステイプル・シンガーズ、マヘリア・ジャクソン、ハービー・マン、デイヴィッド・ラフィン、グラディス・ナイト&ザ・ピップス、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、モンゴ・サンタマリア、ソニー・シャーロック、アビー・リンカーン、マックス・ローチ、ヒュー・マセケラ、ニーナ・シモン ほか
日本公開/2021年8月27日(金)公開
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト

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