第2回シグニス平和賞(シグニス・ジャパン〔カトリックメディア協議会〕主催)の授賞式・上映会が6月23日、神楽座(東京都千代田区)で開催された。今回受賞したのは医師・ 中村哲さんの現地活動35年の軌跡を追ったドキュメンタリー『劇場版 荒野に希望の灯をともす』(制作・配給:日本電波ニュース社)を監督および撮影した谷津賢二(やつ・けんじ)氏。定員120人の会場は満席となり、同作への関心の高さを窺わせた。
今回受賞した谷津氏は、1961年栃木県足利市生まれ。立教大学社会学部卒業。94年に日本電波ニュース社入社。95年〜98年まで日本電波ニュース社ハノイ支局長。山経験を活かし、ヒマラヤ山脈、カラコルム山脈、タクラマカン砂漠など、辺境取材を多数経験し、これまで取材した国は70カ国以上におよぶ。98年~2019年、20年にわたってアフガニスタン・パキスタンで中村哲医師の活動を記録。受賞作『劇場版 荒野に希望の灯をともす』は、その時に記録した約1,000時間の映像素材を元に制作された。
授賞式には、シグニス・ジャパン会長の土屋至氏、同顧問司祭の晴佐久昌英氏、そして谷津氏が登壇した。土屋氏の挨拶に続いて、晴佐久氏が受賞理由にいてこう話した。
この映画は、平和を作り出す人を作り出す映画です。この映画をとおして強く感じるのは、カトリックの価値観である「普遍主義」を中村哲医師が徹底して実践していることです。それはもう宣教とかそういう話を超えていて、透明感あふれる平和の美しさを私たちに見せてくれます。私たちに力と励ましを与えてくれる中村医師の姿を記録したこの映画こそシグニス平和賞にふさわしく、差し上げるというよりも、いただいてもらったというほうがふさわしいかもしれません。
土屋氏から表彰状と記念のクリスタルを受け取った谷津氏は、「これは中村哲医師に授かった賞で、自分は代理で受け取りに来た気持ちでいます」と率直な気持ちを述べた後、「中村医師は深い信仰を持った信仰者です。声高に言わなくても、言葉や行動の端々にキリスト者という深い思いと誇りが滲み出ている信仰者でした」と伝えた。そして、映画への思いを次のように話した。
この映画の中で1曲だけピアノ曲が流れてきます。それはモーツアルトの賛美歌「アヴェ・ヴェルム・コルプス」で、中村医師がアフガニスタンで毎日聴いていた曲です。この曲を映画の中でどうしても使いたかった。ピアノを弾いているのは、中村医師の三女・中村幸さんです。私が福岡まで録音に行ったのですが、「父が苦労する姿、水が通って笑顔になっている姿を思い浮かべながらピアノを弾きました」と言ってくださっていました。中村医師の生き様と言っていいような映像に向き合っていただいて、ピアノの音色にも耳を傾けていただけたらと思います。本日はありがとうございました。
シグニス平和賞は、シグニスの「平和の文化を推進する」という理念に則って、2014年に特別に創設された。カトリックの世界観や価値観に合致し、特に強く平和を訴えかける優秀な作品を厳選して、前々年の12月から前年の11月までに公開された日本映画作品および監督を顕彰するもの。今回は、2014年にドキュメンタリー映画「石川文洋を旅する」(大宮浩一監督)が受賞して以来、以来8年ぶり、2回目の顕彰となる。