空路での旅に見る「イスラーム文化あるある」 サイード佐藤裕一 【宗教リテラシー向上委員会】

今年は新年早々、海外出張が多い年だった。4月までにサウジアラビアに3回、インドネシアに1回渡航した。

イスラーム圏に入ると、そこには当然ながらイスラーム文化圏ならではの事象が広がっている。ムスリムにとっては当然でも、別の文化圏から来た者には珍しく思えるようなことも多い。今回は、飛行機内や空港で感じることができる「イスラーム文化圏あるある」な物事を、いくつか取り上げてみたい。

1.トイレの文化

イスラーム圏のトイレは基本的に、紙よりも「水で洗浄する」文化。空港ではまだウォッシュレット・タイプは普及していないが、その代わり洗浄ホースが付属している場合がほとんど(機内にはさすがにない)。用便の作法に関してイスラームには独特の価値観があり、それは根本教義に関わる重要なものだったりする。これについてはまた、別の回で詳しく取り上げたい。

2.離陸前の祈願

イスラーム圏の航空会社だと、離陸前に「旅行の際の祈願」が機内放送で流れることが珍しくない。「これ(移動手段)を我々のために仕えさせてくださったアッラーに称えあれ……」というクルアーンの一節、および預言者ムハンマドが唱えていたとされる旅行の際の祈願などがアラビア語で流れる。

3.機内モニターの独特な機能

機内モニターがあれば、クルアーン読誦はまずオーディオで聴ける。また航空会社にもよるが、フライトマップにマッカ(メッカ)の方角や距離などが表示されたりするのも、ムスリム的には風情を感じさせるものだ。

機内モニターに表示されるマッカの距離と方向

4.機内礼拝スペース

これはサウジアラビア航空に限られた話だが、エコノミー席の中央に客席3列分くらいの礼拝用スペースが設けられている。進行方向がちょうどマッカの方向と重なっていたら、成人男性が6名ほどは並べるかもしれない。なお、同航空にアルコール類の提供はない。

5.巡礼者の姿

特に湾岸諸国の空港や航空機内では、これからマッカへと向かう、白い布で身を包んだ男性たちの姿を普通に見かけるようになる。ラフな格好や派手な格好をした多様な国籍の旅行者たちが行き交うハブ空港の中で、時に彼ら巡礼者の装いは非常なコントラストと共に引き立って見える。

6.礼拝室での出会い

イスラーム圏の空港内にある礼拝室は、さまざまな国籍や人種が共に祈るために集っては別れる停留所である。そこは空港という非日常的空間において、世界中から集う同胞たちの出会いと交流の機会を提供する場でもある。

7.ムスリム・ミール

イスラーム圏の航空会社であれば、特別「ムスリム・ミール」をオーダーしなくても、イスラームの食基準に沿った食事サービスが提供される場合が多い。なお、ムスリム・ミール、ユダヤ教徒向けのコーシャー・ミール、ベジタリアン・ミールは、大方の航空会社で事前にオーダーできる。

なお、今年はラマダーン月に旅行した時もあった。カタール航空の添乗員は断食前の食事の手配におけるノウハウなどもさすがに心得ていて、快適な機内での断食を行うことができた。

さいーど・さとう・ゆういち 福島県生まれ。イスラーム改宗後、フランス、モーリタニア、サウジアラビアなどでアラビア語・イスラーム留学。サウジアラビア・イマーム大卒。複数のモスクでイマームや信徒の教化活動を行う一方、大学機関などでアラビア語講師も務める。サウジアラビア王国ファハド国王マディーナ・クルアーン印刷局クルアーン邦訳担当。一般社団法人ムスリム世界連盟日本支部文化アドバイザー。

ドーハ空港の礼拝室で知り合いになったヨルダン人男性と筆者(右)

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