「キリシタンの遺品」展が来月2日まで、東京国立博物館(東京都台東区)で行われている。今年7月、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録されたことを記念したものだ。
展示されているのは、長崎奉行所がキリシタンから没収した信仰に関わる遺品や、弾圧に用いた踏み絵など。これらは、16世紀の日本にキリスト教が伝えられて信仰が定着したこと、またその後、禁制下にあっても長崎を中心に信仰が受け継がれた証拠として、きわめて貴重といえる。今回は、そうしたキリシタン関係資料とともに、16世紀から18世紀にかけてヨーロッパで刊行された日本に関する書籍も展示されている。
まず、「板踏絵」が4枚。当初、キリスト像などが彫られた銅板を踏ませていたが、何度も踏まれて破損が激しいことから、板に埋め込んだものが1630年頃から出回るようになったという。17世紀のものとされる「板踏絵」には、「ピエタ」(十字架から下ろされたキリストを抱くマリア)や「エッケ・ホモ」(この人を見よ)をテーマにしたキリスト像や聖母子像などが埋め込まれている。
また、九州の各方面からも踏み絵の貸し出し要請が盛んになったため、1669年には、「真鍮踏絵」が20面作られたが、ここでは「十字架上のキリスト」など4枚が展示されていた。「板踏絵」「真鍮踏絵」いずれも重要文化財だ。
展示会場中央には、オランダ人宣教師、歴史学者のアルノルドゥス・モンタヌスが1669年に刊行した「日本誌」(東インド会社遣日使節紀行)が展示されている。モンタヌスは一度も来日したことはないが、イエズス会士や東インド会社遣日使節の報告書をもとに執筆したとされる。展示されているのは、多くの人々が苦しむ様子が描かれる地獄絵図のような挿し絵。1627年頃、長崎の雲仙温泉でキリシタンたちが熱湯をかけられて殉教していく様子が描かれている。
「宗旨御改人別帖(しゅうしおんあらためにんべつちょう)」も、キリスト教が弾圧された歴史を物語る貴重なものだ。今回展示されているのは、1849年、遠江国(現在の静岡県浜松市)周辺のもの。キリシタンを根絶するため、戸籍で確認できるすべての世帯に寺の信徒になることを義務づけ、住職にキリシタンではないことを保証させた。それを登録した民衆調査台帳だ。
展示場内で、ひときわ目を引く大きな展示物がある。長崎奉行所が没収した「三聖人像」(重要文化財、複写)だ。安土桃山から江戸時代にかけてのものとされる大きな絵画を前に、しばらくの間、立ち止まる人の姿も多く見られた。
そのほかにも、キリシタンたちが肌身離さず持っていたと思われる十字架やロザリオやメダイ(京都府福知山市福知山城堡内出土など)、キリスト像や聖母子像、マリア観音像など。それらをキリシタンたちは密かに持ち運び、家のどこかに隠していたのだろう。知恵を使いながら、静かに信仰を守っていた証拠といえる。
教会も司祭もいない中で、ロザリオを握ってオラショを唱え、励まし合って信仰を守ってきたキリシタンたち。理不尽にも人間の手によって仲間や家族の命を奪われた彼らの、地を這(は)うような力強い信仰をこれらの遺品から見ることができる。そして、今を生きるキリスト者にも大きなメッセージを送っているように感じられた。
展示は本館特別2室で10月10日から年12月2日まで行われている。詳しくはホームページを。