史上初の米朝首脳会談 韓国の牧師はどう見ているか

 

ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日、シンガポールのカペラ・ホテルで会談を行った。両国の首脳が顔を合わせて会談するのはこれが初めて。歴史的な1日となった。

米朝首脳会談で握手するトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(写真:Dan Scavino Jr.)

午前10時(日本時間)を数分過ぎて両首脳が姿を現し、握手を交わした後、写真撮影に応じた。二人とも最初、緊張した顔を見せていたものの、すぐに笑顔を見せ、午前中に通訳を交えて約40分間の単独会談を行った。

ワーキングランチには両国関係者も出席し、和やかな雰囲気の中、話し合いが行われた。そして、4時間に及ぶ首脳会談の後、トランプ氏と金正恩氏が揃って合意文書に署名した。米国が北朝鮮に対して「安全の保証を提供」し、北朝鮮が「完全な非核化に対する揺るがない約束」を再確認した内容だ。

NPO法人・北朝鮮難民救援基金(東京都文京区)代表の加藤博氏は、この日の午前中、本紙のインタビューに対し次のように話した。

「今回の大きなテーマは、核開発問題。当然、大切なことではあると思うが、今日1日ですべてが解決するとは思えない。まして、私たちが支援している方々のような難民問題、脱北者の問題、拉致問題のような組織的かつ人道的な問題については、今回の会談では話し合われないのでは。拉致問題に関しては、結局は日朝の問題。安倍首相がトランプ大統領に拉致問題についても話し合うよう伝えたと聞いている。おそらく、メッセージとしては伝えると思うが、解決に向けた何かまでは期待できない」

現在、韓国を訪問中の妹尾光樹(せのお・みつき)氏(純福音成田教会牧師)は、韓国人牧師と食事をしながらこの会談をテレビで見ていたが、周りの人々の様子はおおむね冷静だという。

「現在、ソウル市内は、自治体の選挙で各候補者が街角で選挙活動を展開していて、その演説の中にも米朝会談の話題が出てきます。韓国世論は、マスコミを見る限り、大勢としては歓迎ムードですが、今までの北朝鮮の態度を否定的に考える人も多く、両者とも保身と名誉のための政治的パフォーマンスだと見る人が多いのも事実です。

今回の会談によってどのような結果がもたらされるのかは未知数ですが、世界の基軸が大きく変わりつつあるということは確かでしょう。

第二次世界大戦後、長く続いたソ連と米国の対立が、ソ連崩壊後、覇権争いのように混沌とした時代が続いてきました。しかし、ここに来て、中国の政治的・経済的な台頭が世界に大きな影響を与えています。今回の会談も、北朝鮮には中国という後ろ盾があってのことであり、いよいよ米国と中国という世界の基軸が生まれつつあることを感じさせます。ある意味では、北朝鮮を自国の駒として使おうという米中の思惑も見え隠れします。

今回、多くの韓国の牧師たちに会談について意見を聞きましたが、次のことは確かに言えます。朝鮮戦争後、北朝鮮は共産主義の道を歩み、キリスト教会は多くの迫害を経験し、反対に韓国は自由主義の道を歩み、キリスト教界は大きなリバイバルを経験してきました。そして、この55年間の韓国教会の祈りには、いつも民族の統一、解放、福音化があったということです。

朝鮮半島のリバイバルは、1907年に平壌(ピョンヤン)のチャンデッヒョン教会から始まったといわれます。今も平壌市内には、当時のリバイバルを思わせる『復興』や『栄光』という地名が残っています。今の韓国教会のリバイバルもまた、朝鮮動乱の際、北から南に下ってきた熱心なクリスチャンたちによってリードされたことはよく知られた事実です。

今回ご一緒している、ソウル市内にあるメガチャーチの牧師は、笑顔をたたえて私にこうおっしゃいました。『多くの韓国教会は、朝鮮半島に戦争がなくなり、北と南が自由に行き来でき、何より宣教・伝道が自由にできることを願って祈り続けています』

私も日本人牧師ではありますが、祈りを合わせていきたいと思います」

守田 早生里

守田 早生里

日本ナザレン教団会員。社会問題をキリスト教の観点から取材。フリーライター歴10年。趣味はライフストーリーを聞くこと、食べること、読書、ドライブ。

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