日本キリスト教協議会(NCC、吉髙叶議長、大嶋果織総幹事)は、「日本敗戦80年・植民地解放80年を覚えて」と題して、8月平和メッセージを8月1日に公表した。
「日本の敗戦とアジア・太平洋地域における植民地支配の終焉から80年という節目を迎え、私たちは、日本の植民地支配と戦争加害の歴史的責任にしっかりと向き合い、記憶から出発する平和への道をあらためて確認したい」という目的で発表されたメッセージは、まず植民地支配と戦争の遂行に加担した加害の歴史に向き合い、「戦争を支えた天皇制と国家神道を容認・支持し、また、それに同調しない仲間を切り捨てたことは、神の前に悔い改め、批判的に省みなければならない」とした。その上で、現在進行する防衛費の拡大、敵基地攻撃能力の保有、沖縄や南西諸島の軍事化という「日本の平和憲法の根幹を揺るがす動き」に対して「否」の声を上げ、戦争責任を否定する歴史歪曲と排外主義に抵抗していくことを宣言。誰もがありのままで尊重される教会、社会を築いていくために、家父長制的価値観や異性愛主義による差別に抗し、経済格差や気候変動に直面する中で、互いに助け合って共に生きる未来へと歩みを進めていくことを訴えた。
メッセージの全文は以下の通り。
NCC 8月平和メッセージ ―日本敗戦80年・植民地解放80年を覚えて―
「人よ、何が善であるのか。そして、主は何をあなたに求めておられるか。それは公正を行い、慈しみを愛し、へりくだって、あなたの神と共に歩むことである。」ミカ書6章8節(聖書協会共同訳)
2025年、日本の敗戦とアジア・太平洋地域における植民地支配の終焉から80年という節目を迎え、私たちは、日本の植民地支配と戦争加害の歴史的責任にしっかりと向き合い、記憶から出発する平和への道をあらためて確認したいと思います。
加害の歴史に向き合う
日本は、台湾や朝鮮の植民地支配に加え、中国東北部を含む中国本土、南洋群島、東南アジア諸国においても軍事占領や間接統治を行い、多くの人々の命と尊厳を奪いました。これらはすべて植民地支配の構造の一環であり、記憶されねばなりません。同時に、当時の日本のキリスト者の多くが、神の名のもとに植民地支配と戦争の遂行に加担した過去にも、私たちは向き合わなければなりません。とりわけ、戦争を支えた天皇制と国家神道を容認・支持し、また、それに同調しない仲間を切り捨てたことは、神の前に悔い改め、批判的に省みなければならないことです。
今、進行する戦争と軍事主義
世界各地で戦争と占領が続き、人々の命が無残に踏みにじられています。とりわけアジアの隣国ミャンマーでは、2021年の軍事クーデター以降、国軍による市民への弾圧、村落の焼き討ち、空爆などによって、多くの人々が命を落としています。そんな中、日本では防衛費の拡大、敵基地攻撃能力の保有、沖縄や南西諸島の軍事化が進んでいます。これは日本の平和憲法の根幹を揺るがす動きであり、私たちはこれに対して「否」の声をあげます。
歴史の否定と排除の論理に抗して
戦争責任を否定し、歴史を歪める動きが加速しています。教科書から日本軍「慰安婦」や植民地支配の記述が消され、朝鮮学校が公的支援から排除され、政治家が沖縄の歴史を侮辱し、外国人や難民へのヘイトスピーチやヘイトクライムが広がり、「日本人ファースト」が臆することなく叫ばれています。こうした排外主義とナショナリズムは、分断と不信を煽って共生社会を破壊し、人々の心を束ねて戦争へと向かわせます。私たちは、すべての人が尊厳をもって生きられる社会に向けて、歴史歪曲と排外主義に抵抗していきます。
家父長制・異性愛主義による差別に抗して
戦争と植民地支配の歴史は、男性中心・異性愛中心の秩序と不可分の関係にあります。軍隊という制度、戦場の性暴力、家庭や国家における女性・性的マイノリティの沈黙と従属は、その構造の一部でした。そして、教会もまた、家父長制的価値観や異性愛主義によって、多くの人々を傷つけ、排除してきた過去と現在を抱えています。私たちは自らのありようを問い直しつつ、誰もがありのままで尊重される教会、社会を築いていくために行動します。
経済格差の広がりの中で
富める者がさらに富み、貧しい者がさらに貧しくなるという経済構造が広がっています。その中で、子どもたち、ひとり親家庭、高齢者、障がいや難病と共に生きる人々の生きづらさが増しています。戦争と差別の構造は、こうした弱い立場に置かれた人々のいのちと尊厳をさらに脅かします。私たちは、子どもを真ん中に立たせたイエスに従って、「小さくされた存在」を中心にした関係性を広げていきます。
環境破壊と気候変動の中で
「富むこと」を優先する価値観は、森林を伐採し、大地や海を汚し、生態系を壊し、地球そのものを収奪してきました。深刻な環境破壊と気候危機に直面して、私たちはようやく自らの責任の大きさに気づいています。戦前は「軍事力」、戦後は「経済力」という「力」に惹かれ、神の創造されたこの美しい世界に「仕える者」になりえなかったことを反省し、脱原発と非核化に取り組みつつ、被造世界の修復と保全に向けて生き方を変革していきます。
平和をつくり出す者として
植民地支配や戦争を体験してきた人々の声、被爆者の証言、そして正義を求めて立ち上がる人々の姿に、私たちは励まされてきました。平和は、記憶の継承とともに育まれ、差別と搾取に抗する勇気と、日々の生活の中に根を下ろす小さな実践の積み重ねによってつくられ、守られていきます。私たちも日本の加害の記憶に立ち戻り、いまだ検証しきれていない事実の掘り起こしに真摯に取り組みつつ、悔い改めの歩みを続けていきます。戦争はもちろん、いかなる暴力も容認しない姿勢を日常の活動の中に反映させていきます。人々のあいだに権力関係をつくり出すいかなる価値観やシステムにも抵抗し、互いに助け合って共に生きる未来へと、ねばり強く歩みを進めていきます。それこそが、「公正を行い、慈しみを愛し、へりくだって神と共に生きよ」との呼びかけに応えることになると考えるからです。
2025年8月
日本キリスト教協議会 議長 吉髙 叶
総幹事 大嶋果織
(NCC第42総会期第6回常議員会承認)