日本のゴスペル界で活動するアーティストたちにスポットを当てた音楽ドキュメンタリー『歌と羊と羊飼い』が、今月29日に開催される横濱ゴスペル祭2021でプレミアム上映される。一般公開は10月から、渋谷のユーロスペースで。
1992年に公開された映画『天使にラブソングを…』(ウーピー・ゴールドバーグ主演)をきっかけに、日本でも広く知られるようになったゴスペル。黒人教会にルーツを持ち、キリスト教と密接な関係にありながらも、クリスチャンであるなしに関わらず多くの人を魅了し、現在、ゴスペル人口は20万人にのぼる。同作品では、そんなゴスペルの魅力を、実際に歌う人たちの姿をとおして明らかにしていく。
監督は、ベトナム人青年と日本人青年の結婚式を追ったドキュメンタリー映画『ぼくと、彼と、』、横浜・長者町の伝説のライブ・ハウスのドキュメンタリー『FRIDAY』の四海兄弟。製作総指揮は『GOSPEL』(監督:松永大司、2014年)でプロデューサーのを務めた飯塚冬酒で、彼らにとってこれが3本目のドキュメンタリー映画となる。
スペイン生まれのゴスペルシンガー(MARISA)、米国黒人教会でゴスペルを指導していた経歴を持つ牧師(Rev.Taisuke)、全国ゴスペルコンテストに挑戦する二人の少女(眞塩藍咲、HIKARU)、ゴスペルに向き合うゴスペルミュージシャン(遠谷政史、大山小夜子、Pencil Bunch)、ゴスペルと出会い変わっていく女性(杉本民奈子)。
彼ら彼女らにカメラは向けられ、ゴスペルを歌う意味を静かに探っていく。その中で、ゴスペルへの思いとシンガーたちの人生が交錯し、ゴスペルをとおして「生きること」や「愛すること」、そして「祈ること」に思いを巡(めぐ)らしていくことになる。
その一方で、普段はあまり見ることがない、海で洗礼が行われるシーンや、昨年8月、心筋梗塞により51歳の若さで亡くなったゴスペルシンガーの松谷麗王さんの貴重なインタビュー映像、千代延大介(サルーキ=)さんらクリスチャン・ミュージシャンのコメントなどが挟み込まれ、映像を重層化する。
印象に残るのは、スペイン生まれのゴスペルシンガー・MARISAが述べた次の言葉。
ゴスペルは、どこで歌っても、祈りになります。それは、神様への礼拝です。この祈りを聞いているお客さんが、どう受け取るかは自由です。
同作品を見ながら、あるゴスペル教室の案内に「大きな声で歌ってストレスを発散させましょう」と書かれたあったことを思い出し、これはちょっと違うなと思った。ゴスペルを歌うことは、発散ではなく、満たされることだ。だからこそ、人々はゴスペルに魅了されるのではないだろうか─── ラストシーン、全国ゴスペルコンテストでHIKARUが歌う姿に、詩篇23篇1節の御言葉「主は私の羊飼い。私は乏しいことがない。」が重なった。
2021年製作/56分/日本
製作・宣伝・配給:ガチンコ・フィルム
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