ボードゲーム『人生ゲーム』の生みの親であるゲームデザイナーのルーベン・クライマー氏が9月14日に米カリフォルニア州の自宅で亡くなったと報じられた。同シリーズは世界59カ国26言語で販売され、出荷本数7000万個を超える大ベストセラー商品。日本では1968年にタカラ(現タカラトミー)から発売されて以降、83年の3代目で日本独自のアレンジが施され、「平成版」からは折々の世相を反映した若年層向けのバージョンや、『ドラえもん』『鬼滅の刃』など人気キャラクターとのコラボでパーティーゲームの定番として長く愛されてきた。
スタートからゴールまでの間に就職や結婚などの人生に関わるさまざまな出来事を疑似体験し、その名の通り波瀾万丈なもう一つの人生に一喜一憂できる。勝負の行方がほとんどルーレットの目にかかっているので、子どもから大人まで対等に勝負することができるのも特徴だ。
ゲームの原型は当時24歳だったミルトン・ブラッドレー氏が開発し、「ミルトン・ブラッドレー社」が販売していた『THE CHECKERD GAME OF LIFE』(1860年)。チェス盤のような市松模様のマスに、人生で起こりうるさまざまなイベントが書かれており、「上か下に進む」「右か左に進む」という指示のもと、自分の好きな方向に移動していきポイントを稼いでいくゲーム。
この「ミルトン・ブラッドリー社」から創業100周年を記念するゲームを依頼されたルーベン・クライマー氏が、『THE CHECKERD GAME OF LIFE』を大幅にアレンジして開発したのが『人生ゲーム』(『THE GAME OF LIFE』)である。善行のマスに止まるとポイント獲得、悪行だと1回休みなど、敬虔なクリスチャンであったブラッドレー氏の「ゲームを通して聖書の教えを広める」という宗教教育的な意図が込められていた。
タカラトミーの公式サイトには、こんな解説が掲載されている。
聖書の教えから生まれた 「人生ゲーム」の原型
1860年、米国マサチューセッツ州・スプリングフィールドで印刷業を営むミルトン・ブラッドレーという24才の若者が、古からあるチェッカーのボードに実際の人生で起こる出来事を盛り込んだ「THE CHECKERD GAME OF LIFE」という盤ゲームを考案しました。盤上のマスにポイントが獲得できる「善行のマス」と1回休み等になってしまう「悪行のマス」の2種類がある点が特徴で、「上か下に進む」「右か左に進む」という指示から好きな方向を選択してコマを動かします。
ゲームの進行上、「善行のマス」を常に選んでいけばより多くのポイントが得られるように構成されており、敬虔な“清教徒(ピューリタン)”であった彼は、このゲームを通して聖書の教えに従い、“悪行”を戒め、“善行”を奨励したのです。中でも象徴的なのが「SUICIDE(自殺)」のマスで、彼は人生において最も大切にすべき規律を尊び、このマスに進んでしまうとポイントはすべて没収され、そのプレイヤーはその場でゲーム終了となってしまうルールになっていました。
そんな世界的にもファンの多い『人生ゲーム』に、実は日米で決定的な違いがあるという。原型のアメリカ版にあって日本版(英語を直訳した初版ではなく3代目以降の日本オリジナル版)にないものとは?
それは、「養子縁組」。アメリカ版では、あるマスに止まると、男児か女児が指定された「養子」を迎えて、車に乗せる。しかし、日本では「出産」だけ、つまり「実子」のみ。牧師として養子縁組の支援にも携わってきた水谷潔(きよし)氏(日本福音キリスト教会連合春日井聖書教会)はこう解説する。
「これは、両国の文化の違いによると考えられますが、その根底にあるのは、キリスト教的価値観の有無でしょう。キリスト教国として血縁に縛られない家族という聖書的価値観が根付いている社会と家制度など血縁主義の家族観で歩んできた社会の違いでもあるのでしょう」
「『人生ゲーム』には、夢や希望を持つこと、自立して生きること、人生の展望、お金の大切さなどを子どもに教える教育的な側面があります。一方でクリスチャンの中には、聖書と正反対の価値観を子どもに植え付けるのではと抵抗を覚える方も。そうした方には、『バイブルハンター』など、聖書をベースにしたゲームがおすすめ」
創業者の訃報を受け、背景にある聖書やキリスト教文化との邂逅(かいこう)に思いを馳せながら『人生ゲーム』を楽しむのもまた一興だろう。
ちなみに2019年に公開され、第66回サンセバスチャン国際映画祭で最優秀新人監督賞を受賞した『僕はイエス様が嫌い』(奥山大史監督)の作中でも、主人公の少年が『人生ゲーム』で遊ぶ印象的なシーンが登場する。