聖書事業懇談会が4月10日、大阪クリスチャンセンター(大阪市中央区)のOCCホールで開かれた。そこで、12月刊行予定の「聖書協会共同訳」についての講演を、翻訳者・編集委員である飯謙(いい・けん)氏(神戸女学院大学総合文化学科教授)が行った。その内容を連載でお届けする。
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4 まとめに代えて
限られた時間ではありましたが、聖書翻訳の新しい取り組みについてお話ししてきました。
私は「口語訳」の旧約聖書が出版された年に誕生しました。聖書といえば「口語訳」という気持ちで育ちました。ですので、「新共同訳」が世に出た当初は、それに馴染(なじ)めず、たいへんつらい思いもしました。
しかし、「口語訳」も念頭に「新共同訳」を読み込み、聖書の豊かさを再発見し、今では最初に「新共同訳」のフレーズが思い浮かぶようになりました。
これは賛美歌もそうです。最近、日本基督教団の新しい賛美歌である『讃美歌21』の20周年記念の会が行われたと聞きました。私は『讃美歌21』にも馴染めなかったのですが、今では『讃美歌』(1954年版)と同じ旋律が流れますと、『讃美歌21』の歌詞が出てきます。
今回の聖書翻訳も、聖書に親しむ人の心を着実に耕し、信仰に新たな息吹を吹き入れてくれると信じています。もちろん、今回の翻訳も、いずれ新たな翻訳に取って代わられる暫定的なものという運命を免(まぬか)れるものではありません。
私はよく学生の皆さんに、「神はあなたの業(わざ)をすでに受け入れてくださった」(コヘレト9:7、新翻訳)と「手の及ぶことはどんなことでも力を尽くして行うがよい」(同10節)を引いて、いま目の前にあることを一生懸命やるよう勧めています。
この翻訳も、文字と辞書だけによって行ったものではありません。同時代を生きる人の顔を思い浮かべながら、ふさわしい訳語とメッセージを祈りながら導かれたわざです。皆様にもこの翻訳に熱心に力を尽くして向き合っていただき、新たな発見を重ねていただきたく願うものです。
神さまがこの土の器に豊かな宝を盛ってくださることを信じ、恵みを数える歩みを続けていきたいと思います。