香港で反政府活動を取り締まる「香港国家安全維持法」が施行されてから30日で2年となる。この間香港では、民主活動家の逮捕、民主メディアの廃刊など政治活動や言論は統制され、国際都市・香港の特長であった自由で寛容な社会は大きく変化した。そんな中、12人の牧師を中心に祈りの運動が起こされ、「香港を覚えての祈祷会」を定期的に続けてきた。今回、その祈祷会の軌跡が1冊の本『夜明けを待ちながらーー香港への祈り』(教文館)となり、出版記念会(教文館主催)が10日、お茶の水クリスチャンセンター(東京都千代田区)で開催された。約60人が参加した。
「香港を覚えての祈祷会」は、2020年10月30日に、香港と深い関係のある日本キリスト教団の松谷曄介さん(金城学院大学准教授・宗教主事)が発起人となり始まった。「呼びかけ人」に名を連ねたのは、教団・教派を超えた12人の牧師。香港の牧師や神学者ら有志による「香港牧師ネットワーク」をモデルにオンライン(Zoom会議)で開催され、自由を失う香港の人たちのためにできることを祈りつつ考える中で、定期的な祈祷会という形ができあがっていった。
出版記念会は2部構成で行われ、第一部では、執筆者によるパネルディスカッションが行われた。登壇したのは、平野克己さん(日本キリスト教団代田教会)、星出卓也さん(日本長老教会西武柳沢キリスト教会)、唐澤健太さん(カンバーランド長老教会国立のぞみ教会)、伽賀由さん(日本メノナイト教会帯広キリスト教会)。伽賀さんは北海道からオンラインで参加。松谷さんが司会を務めた。
「祈祷会」では、香港から「当事者」に参加してもらうこともあったので、安全上の問題から広く呼びかけることは避けてきた。そのため会場に訪れて初めてこの祈祷会を知ったという人も少なくなかった。また、2年前に祈祷会をオンラインで始めてからリアルで会うことはなかったため、この日のパネルディスカッションで初めて対面で顔を合わせることにもなった。
それぞれの自己紹介の後、どのような思いで祈祷会に加わり、実際関わってみてどう感じたかなどが語られた。共通していたのは、発起人である松谷さんの情熱に心が動かされ参加し、教団教派関係なく、またそれぞれの教会にとらわれず、香港のために心を一つにして祈れたという思いだ。それに加え、祈祷会がZoomで行われたことも大きな意味があった。
唐澤さんは、「コロナ禍でオンライン礼拝が浸透する中でこの祈り会が始まったのは不思議な気がする」と述べ、「空間を超えて祈りでつながるという経験は自分にとって豊かな経験だった」と話した。松谷さんも「リモートによって、香港、アメリカ、イギリスとつながることができた。これは今までになかったこと。メールの時代よりももう一歩進んだと感じた」と語った。伽賀さんも「リモートで、香港のその時の声を実際に聞くことができたのは大きな恵みだった」と感想を伝えた。
「教会は友情の共同体」という言葉が好きだと話す平野さんは、「祈祷会」に参加し、友だちのつながりができたのが嬉しかったと述べ、「解決があるわけではないが、一緒に嘆くことができる場所があることは幸せ」と語った。一方、松谷さんは当初、香港の情勢を考えた時、人を巻き込んで安全なのかなど祈祷会を開くことに懸念もあったという。しかし、2013年から16年まで香港の神学校で学んだことを考えると「3年間神さまは、この時のために遣わせてくれたのかもしれない。香港のために自分はこれしかできないと思った」と明かす。
これを聞いた星出さんは、「最初の『祈祷会』で松谷さんが『負債を返したい思いがある』とおっしゃったのが印象的だった。この祈り会が始まる前からすでに祈りがあって、12人によってさらに運動が盛り上がっていったように感じる」と話した。それぞれの教会の平和への取り組みを紹介した後、最後に松谷さんが次のように締めくくった。
「顔が見える交流があってこそ、友だちのために祈ろうとか、助けようという思いが起こると思う。今は、グーグル・アプリもあって、言葉ができないことは言い訳にはならない。言葉ができなくても祈ったり、礼拝したりすることはできるはず。今後、コロナが終息し、海外からクリスチャンの旅行者が来たら、自分の教会を案内する。逆に、海外に行ったら地元の教会を訪ねてそこの人たちと普通の交流をする。こういった民間交流を教会でこそ大事にしていきたい」
第2部では、大嶋重德さん(日本福音自由教会鳩ヶ谷福音自由教会)、朝岡勝さん(日本同盟基督教団派遣教師、東京キリスト教学園理事長・学園長)、森島豊さん(日本キリスト教団、青山学院大学教授、同大宗教主任)が登壇し、「What the Pastors!!(WTP)」の公開収録が行われた。番組はこちらから聞くことができる。