ルオーの宗教的メッセージが愛される理由「ジョルジュ・ルオー──聖なる芸術とモデルニテ」パナソニック 汐留ミュージアムで

 

カトリック画家のジョルジュ・ルオー(1871~1958年)の傑作が集結した「ジョルジュ・ルオー──聖なる芸術とモデルニテ」(主催:パナソニック 汐留ミュージアム、NHK、NHKプロモーション、東京新聞)がパナソニック 汐留(しおどめ)ミュージアム(東京都港区)で開催されている。12月9日まで。

汐留ミュージアム開館15周年、ルオー没後60年を記念する特別展。国内外の名品も合わせて、油彩、水彩、版画、資料の約90点が並ぶルオー芸術の集大成といえる。

「ヴェロニカ」1945年頃 油彩 ポンピドゥー・センター パリ国立近代美術館蔵Photo © Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist.RMN-Grand Palais/image Centre Pompidou,MNAM-CCI / distributed by AMF

カトリック教徒だったルオーは、生涯にわたって「受難」や「キリスト像」などを数多く描いてきた。それらを通して人間の苦悩、慈愛や赦(ゆる)しを表現したルオーの聖なる芸術は、今なお多くの人を惹(ひ)きつけてやまない。

師ギュスターヴ・モローの死などで精神的苦難に陥っていた時に友人から、「世界に愛の最も美しいかたちを与えるのが君の務めだ」と言われて奮起し、革新的な造形表現により、愛に満ちた美しい世界を描いてきたルオー。同展では、そんなルオーの「聖なる芸術」にテーマを定め、その意味と現代性(モデルニテ)を改めて味わえる内容になっている。

「受難(エッケ・ホモ)」1947−49年 油彩 ポンピドゥー・センター パリ国立近代美術館蔵Photo © Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist.RMN-Grand Palais/image Centre Pompidou,MNAM-CCI / distributed by AMF

会場は、「ミセレーレ:蘇ったイコン」「聖顔と聖なる人物:物言わぬサバルタン」「パッション:受肉するマチエール」「聖書の風景:未完のユートピア」の4つのテーマに分かれている。

見どころは、ヴァチカン美術館が初めて日本に出品する「聖顔」「パックス(平和)」「秋 またはナザレット」の油彩3点と、七宝作品「聖心」。生前、ルオーは教皇ピウス12世に謁見(えっけん)して作品を寄贈し、没後は家族らが作品をヴァチカンに献納している。さらに、ポンピドゥー・センター パリ国立近代美術館から出品されている「ヴェロニカ」、ルオーの最後の作品の一つである「サラ」(ジョルジュ・ルオー財団蔵)は必見だ。

パナソニック 汐留ミュージアムの学芸員、萩原敦子さん

同館では毎年、コレクションなどの中からルオー展を開催してきたが、これほどルオーの代表作といわれるものを集めた展覧会は初めてだという。同ミュージアムの学芸員、萩原敦子(はぎわら・あつこ)さんに話を聞いた。

──ルオーはいつ頃、日本に紹介されたのでしょうか。

ルオーは、戦前のかなり早い時期に洋画家の梅原龍三郎によって紹介され、その後、ルオーと親しく交際していた美術評論家の福原繁太郎によって日本にその名が知れ渡っていきました。1953年には東京国立博物館などでルオー展が開かれて、かなりのインパクトを与え、ルオーの人気が高まりました。この時に出品された絵も今回、半世紀ぶりに展示されています。

──ルオーの魅力を教えてください。

ルオーは常に、キリストの「受肉」や「受難」の真実に大きな関心がありました。しかしその一方で、第一次世界大戦後の矛盾に満ちた世の中で、虐げられる者と虐げる者、裁かれる者と裁く者、さらに言えば、着飾った者と素顔といった二項対立に注目し、初期は、社会の底辺で生きる人々の悲哀や社会の矛盾への憤りを主題とする独自の画風を切り開いていきました。

しかし、決して孤立していたわけではありません。頭のいいルオーは、世の中の情勢を敏感にキャッチしながら、マティスやピカソのやっていたことを取り入れるところは取り入れ、ゆるやかに時代の流れの中で独自に絵を描いていったのだと思います。美術史的にいえば、大きな変革をもたらした画家ではないため、ピカソやマティスに比べて知名度が下がってしまうのですが、それでも愛され続ける画家であることに間違いありません。

「秋 またはナザレット」1948年 油彩 ヴァチカン美術館蔵Photo © Governatorato S.C.V. – Direzione dei Musei

──愛され続ける理由はどこにあるのでしょうか。

ルオーの芸術が持っているメッセージの力強さだと思います。最近も、難民問題に関心がある写真家が自分の写真を「ミセレーセ」と並べて展示をしたりしています。それは、ルオーが抱えているテーマが現代でも力を持っているからではないでしょうか。ルオーは、芸術が持つ力で世の人にメッセージを伝えることができる、芸術の力を信じさせてくれる画家です。

ルオーの「聖なる芸術」は、普通に私たちが思い浮かべるキリスト教美術とはまったく違います。それは、教会のために絵を描くといったこととは切り離された聖なる芸術です。高貴な精神を介して生み出された信じる者による芸術こそ、ルオーが考える「聖なる芸術」なのです。ルオーは、敬虔なカトリック信徒でしたが、あくまでも自分は画家であるという立場を崩さず、キリストの受肉や受難、底辺に生きる人々など、個人的なテーマを描いています。そこには、信仰を持たない人でも、何かを信じる人ならば心に感じるものがあると思います。
 

開館時間は、午前10時より午後6時まで(入館は午後5時半まで)。休館日は水曜日(ただし、11月21・28日、12月5日は開館)。入館料は一般1000円、65歳以上900円、大学生700円、中・高校生500円、小学生以下無料。※20人以上の団体は100円引き。※障がい手帳をご提示の方、および付添者1人まで無料。詳しくはホームページを。

※開館15周年特別展「ジョルジュ・ルオー──聖なる芸術とモデルニテ」のペア・チケット入場券をプレゼントします。応募締め切りは11月21日(水)まで。応募は、氏名、住所、所属教会名を明記の上、ホームページのいちばん下にある「お問い合わせ」から。当選者発表は商品の発送をもって代えさせていただきます。当選に関するお問い合わせにはお答えすることはできません。

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