近頃、新年を祝うお菓子として人気を集めているフランスの伝統菓子「ガレット・デ・ロワ」。ガレットはフランス語で丸くて平べったいお菓子、ロワは王様のこと。つまり、「王様のお菓子」という意味があります。
日本ではクリスマスケーキと並行して予約受付がはじまり、お正月に食べる家庭が多いようですが、正式には1月6日のエピファニー(公現祭)に食べるお菓子とされています。
“エピファニー”とはギリシャ語で「出没」や「出現」を表す言葉。イエス・キリストが生まれた日、3つの贈り物を携えてやってきた東方の三賢人の目の前に、神の子・イエスが出現したことを記念する祭日です。このことから、カトリックでは12月25日から1月6日までの期間をクリスマスとしてお祝いするのだとか。
※実際は1月6日が祝日として定められていないことから、1月最初の日曜日に食べることが多いようです
ガレット・デ・ロワのスタイルは地域によってさまざまですが、日本でよく売られているのは、大きなサイズのパイ生地の中に、クレーム・フランジパーヌ(カスタードクリームにアーモンドクリームを合わせた濃厚なフィリング)を詰めたタイプ。ごくシンプルではありますが、シンプルだからこそ、パティシエの技術が問われるお菓子でもあります。
このほかにも、王冠型に焼いたブリオッシュにドレンチェリー(さくらんぼの砂糖漬け)やアンゼリカ(蕗 〔ふき〕に似た植物の砂糖漬け)などをのせた「ブリオッシュ・デ・ロワ」、ドイツにも王様のケーキという意味を持つ焼き菓子「ケーニヒスクーヘン」など、いわゆるご当地お菓子が存在します。
どんなタイプのガレット・デ・ロワにも共通するのは、中に一つだけ、フェーヴと呼ばれる小さな陶器製の人形が隠されていること。かつては幼子イエス様や東方の三賢人、聖母マリアなど、キリスト教的なデザインのものが中心でしたが、現在はかなり多様化していて、色も形もさまざまなフェーヴが登場しています。コアなファンも多く、フェーヴ専門店やフェーヴコレクターを指す言葉“ファヴォフィル”が誕生するほど。
もともとフェーヴとは“そら豆”を指すフランス語。かつて、古代ローマやギリシャでは、何かを選ぶくじ引きの際に、パンの中にアタリのしるしとしてそら豆やコインを隠していたことに由来するといわれています。
余談ですが、旧約聖書にも登場するそら豆は、世界最古の農産物とも呼ばれている食材。一説には、胎児の形に似ていることから、生命の象徴として取り入れられたのだとか。日本には、遅くとも江戸時代には伝わっていたようです。
あなたは小麦、大麦、そら豆、ひら豆、きび、裸麦を取って、一つの器に入れ、パンを作りなさい。あなたが脇を下にして横たわっている日数、つまり三百九十日間、それを食べなさい。
[エゼキエル4:9]新共同訳※2019年に発行された聖書協会共同訳では、そら豆は単なる「豆」、ひら豆は「レンズ豆」に変更になりました
さて、切り分けられたガレットの中にフェーヴが入っていた人は、その日1日は“王様”としてみんなに祝福され、その幸運が1年間続くといわれています。さらに、参加者は王様の言う通りにしなくてはいけないというルールが設けられることも。これってまさに王様ゲーム! 盛り上がりそうです。
今年は大勢で集まって賑やかに・・・というわけにはいきませんが、家族で過ごすひととき、ガレット・デ・ロワを取り入れてみてはいかがでしょうか。