今回の深井智朗(ふかい・ともあき)氏の不正行為は、文部科学省のガイドラインによる「捏造(ねつぞう)」および「盗用」にあたるが、不正の対象となった2作については、東洋英和女学院に任用される前に執筆は終了している。今回、新たな問題点となったのは「立証妨害」。その点について佐藤智美(さとう・さとみ)副学長は次のように具体的に説明した。
「深井氏の説明が二転三転するわけです。そのたびに調査委員会が振り回されることがありました。たとえば、トレルチの家計簿は、最初は『資料室で見つけた』と言っておきながら、実際には資料室に行っていません。それが分かると、次には『許可を得ることができなかったので、他人に絶対に見せない約束で写真を撮った』とか、言うことがたびたび違っていたのです」
今回、捏造と認定されたのは、「今日の神学にとってのニーチェ」と題名を変えた論文がカール・レーフラーによるものと実証できないことであり、題名は違うものの論文自体は存在しており、深井氏が偽造したわけではない。また、トレルチの家計簿についても、資料をゼロから捏造したわけではなく、関係ないものをよく調べもせずにトレルチの資料として使ったことにある。しかし佐藤副学長は、「でっち上げた」という強い言葉で、深井氏の研究者としての行為を非難した。
調査が終わった後、その結果に対する異議申し立て期間を10日間設けたが、その最終日になって、「カール・レーフラーはペンネームであったことを考えてほしい」と深井氏が申し立ててきたが、客観的な根拠になっていないということで異議申し立てが取り上げられることはなかった。
深井氏は、異議申し立てが却下された3月初め頃、理事長宛に退職届を書面で提出したが、それ自体は理事会にかけられず、辞意を認めた上での処分として懲戒解雇が全員一致で可決された。その理由について、増渕稔(ますぶち・みのる)理事長は次のように語った。
「捏造と盗用という不正行為は、東洋英和女学院の職につく前のものだが、調査委員会への立証妨害は、調査の過程におけるものなので、これは同学院の規定に対する重大な違反です。また、院長という、すべての模範になるべき者に相反する行為で、学院の信用が大きく傷つけられる。そういうことを考慮し、懲戒処分の中でも最も重い懲戒解雇にすることが適当であったと思われます。適切でない人物を任用した学院として、責任を重く受け止めなければならないと、将来の反省として深く心に刻んでいきたいと思っています」
牧師でもある深井氏が不正行為を行ったことについて聞かれると、増渕理事長は「たいへん遺憾」と答える一方、「研究活動上の不正行為、捏造、盗用、立証妨害は、クリスチャンであるなしにかかわらず、研究者として非難されるべき行為であり、それ以上のことは言えない」と締めくくった。増渕理事長も日本基督教団・井草教会会員であり、牧師の深井氏が立証妨害をしたことについてショックを受けている様子だった。
また、問題になった書籍などへの対応については、佐藤副学長が次のように説明した。
「『ヴァイマールの聖なる政治的精神』はすでに出荷停止になっていますが、回収することを版元の岩波書店に勧告しました。また『図書』については、あたかも自分で発見したかのように読み取れるので、お詫びと訂正を掲載することを勧告しています。深井氏は、正誤表を出すという相談を岩波書店としているようですが、学院としては、それでは不十分と思い、そのような勧告を出しました。岩波書店は、最終的な報告書を見てから判断したいと言っています」
岩波書店は13日、深井氏と相談の上で同書を絶版とし、可能な限り回収すると発表した。