【塀の中からハレルヤ!】(4) 叶わなかった親孝行

全国各地に緊急事態宣言発令中の1月。礼拝や聖餐式、洗礼も自粛する教会も多い。埼玉県にある罪人の友主イエス・キリスト教会も毎週の礼拝をオンラインに。そんな中、一月下旬、受洗した一組の夫婦がいた。現在、夫のあきらさんは服役中。

強盗罪で5年が求刑されていた裁判は、1月下旬に2年8か月の実刑が確定。即日、収監となった。裁判の前日、あきらさんが弊紙の電話インタビューに答えた。

夫の名はあきらさん(31)。東北地方の寒い地域で、4人兄弟の3男として生まれた。両親は幼い時に離婚。父の再婚相手が育ての母となった。

小学校時代は野球に明け暮れ、プロ野球選手に憧れる少年だったという。地元の中学に進み、迷わず野球部に入部。体を鍛え、「甲子園を目指したい!」とほんのりと夢を抱いていたころだった。

しかし、思春期に入り、「頑張ることはかっこ悪い。ちょっと悪いことをするのは面白いし、むしろかっこいい」と思うように。そのころ、ちょうど地元の先輩が、あきらさんの好奇心を上手にくすぐってきたという。

「先輩たちと悪さをするのは楽しかったですね。他人に迷惑をかけなければいいのかななんて思っていました」と当時を振り返る。

同時に、学校がつまらなくなってきた頃でもあった。学校の授業についていけず、勉強は全くわらかない。退屈な授業に一日の半分以上を費やすのすら惜しくなり、次第に不登校に。家出を繰り返し、シンナー、暴走行為、窃盗にも手を染めるようになっていた。

中学を卒業すると、少し仕事をしては辞めて遊び、また仕事をしては辞めてを繰り返していた。暴力団とも付き合い出すようになり、事務所当番、運転手などもするようになった。あきらさんにとって暴力団は居心地がよかった。薬物を使用することはなかったものの、運び屋のような役目も担った。

「遊んで暮らせるような気がしていました。決してきれいなお金ではないのに…と今は思います」

少年の時に4回補導。少年院や少年鑑別所に。成人してから今まで2回の逮捕。1回服役している。そして今回3回目の逮捕。インターネットを介しての犯罪に手を出した結果だという。

「前回の服役から3年以上が経っていました。もう獄中には戻るまい。妻と子どものためにもまじめに生きようと思っていたのですが、ついつい楽してお金を手に入れるという昔の甘さを思い出してしまいました。きちんと働いていたのに、本当に申し訳ないと思っています」

あきらさんが留置所にいた昨夏、元やくざだった進藤牧師のことを会社の同僚から聞いた妻ゆみえさんが罪友教会へ足を運んだ。あきらさんも留置所で本を読み、進藤牧師も面会に行ったという。

「自分の弱さをなんとかしたいともがいていた時期でした。まじめに生きようと思っていたのに、またやってしまったという後悔や自分の愚かさにも嫌気がさしていました。進藤先生は、見るからに想像していた牧師と違う…。聖書の言葉は難しいけど、先生の説教はなぜかわかるような気がして面白かったですね。この人なら、自分のことをわかってくれるのではないかと思いました」と牧師との初対面の感想を語った。

保釈されてからも、できる限り礼拝に行ったり、聖書の勉強に勤しんだ。

3回目の逮捕をされ、今、やっと半生を振り返ることができている。

「2回目の逮捕の時、服役中に父が亡くなったと知らされました。もう何年も連絡をとっていない父でしたが、いつか会いに行って、親孝行をしなければと思っていたので。もう叶わないと思うと、本当に悔しいです」

1月下旬、裁判を前に夫婦で受洗。

「新しい自分になりました。自分の罪をイエス様の血で洗い流してくださいました。もう後戻りをすることはしません。まずは、法的に罪を償い、神様の言葉を受けながら、家族とまじめに生きていきます。単純ですが、『信じれば救われる』のですよね。僕は救われたいと思いました」と話した。

妻のゆみえさんは、16歳で長男を出産。苦労しながら、息子を育ててきた。あきらさんと知り合って、息子を自分の子どものように大切にしてくれる姿に惹かれていった。4年間の交際を経て、あきらさんと結婚。息子の発達に遅れがあることに気づいてくれたのもあきらさんだったという。

「息子は夫がいないと、ずっと探し回って、泣くんですよ。私たち親子にとっても試練は続きますが、教会につながり、夫を支え、待っていようと思います」と話した。

進藤牧師に「服役前の人に洗礼を授けることに抵抗はなかったか?」と聞いてみると、次のように答えた。

「逮捕される前に教会に家族で来てくれて、一緒におそばを食べたことがあったのです。いかにも悪そうな風体でしたので、『逮捕された』と聞いても驚きはしませんでしたね。しかし、奥さんと教会員とで東松山警察署に面会に行ったときに、あきらさんは大泣きして、本当、男泣きっていうんですかね、家族や被害者に申し訳ないことをしたってね。それで、そのまま、泣きっ面でキリストの信仰告白を留置場でしたんですね。本当に感動でした。その涙する彼が本当の彼なのです。そして、奇跡的に国選弁護人が動いてくれて、保釈がみとめられて、その次の日から働き始めて、礼拝にも欠かさずに来ていました。

1週間かけて毎日、LINEで洗礼の学びを受けて、月一回ですが依存の学びにも出席してきました。そんな彼のどこに洗礼をさまたげるものがあるでしょうか。

刑務所は悪い奴しかいないところです。改心して出てくる人は、初犯刑務所にちょっといるくらいなものでしょう。彼は2度目の服役ですから、悪さに磨きをかけるところにいくのです。それが刑務所という所なのです。

しっかりとした信仰を植え付けて、パウロのように伝道する気持ちで、努めてきてほしいですね」

【塀の中からハレルヤ!】(3) 弁護士として…信仰者として犯罪者と向き合う

守田 早生里

守田 早生里

日本ナザレン教団会員。社会問題をキリスト教の観点から取材。フリーライター歴10年。趣味はライフストーリーを聞くこと、食べること、読書、ドライブ。

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